2
──フレアエルド戦記。
ジャック・リンカーが前世──二十一世紀生まれの日本人だった頃に遊んだシミュレーションRPGのタイトル。
ジャンル内においては真新しい要素こそ薄かったものの、奇をてらわずセオリーに忠実だったゲーム性は「こういうのでいいんだよ」と一定の評価を得ており、ファンタジー色の強い世界観と美麗なグラフィックで描かれた各国のキャラクターたちが織り成す豊富なイベントと、複雑な機能を一部簡略化させた初心者向け難易度の実装によってライト層の引き込みにも成功した、そこそこの人気作。
シリーズ化もされており、ジャックの前世が知る限りでは五つのタイトルが世に出ている。
──そしてシャイアは、その中でも二作目にあたる、外伝と銘打たれた作品の舞台であった。
「なんで外伝、なんでよりにもよって外伝、ふざけんなチクショウ……!」
ジャックの前世はシリーズ全作をプレイこそしたが、イベント関連を
けれど一作目の
ゆえにこそ、この地の末路は嫌というほど知っていた。
何度もゲームをクリアするたび、見続けたのだから。
──シャイアが滅び去るという、身も蓋もないエンディングを。
「どうしろってんだ……」
記憶の濁流による混乱もどうにか収まった頃合、ジャックは途方に暮れた様子で呟いた。
「あんな結末を迎えるのはゴメンだ……けど、俺に何ができる……?」
フレアエルド戦記は国家間戦争を題材とした
国を盛り立て、将を集め、兵力を養い、時には戦争で、時には策謀で敵国を降し、自国の
一騎当千と讃えられるような人物こそシリーズを通して何人か居たが、そんな最上位格のキャラクターであっても単騎では国ひとつ落とせない。
決して、特別なチカラを持った一人二人のスーパーヒーローが巨悪を相手に立ち向かい、世界を丸ごと救うようなゲームではないのだ。
シャイア七国いずれかを統治する血族に生まれていたならまだしも、ジャックは単なる
精々が内政フェイズで
しかも、この手のゲームには
いかにも主人公然とした若王の統べる国が初手数ターンで滅亡することも、ラスボス風な超大国の皇帝が無能な臣下の裏切りであっさり殺されて国を乗っ取られることも、なんら珍しくない。
したがって、今後どうなるかの流れさえ分からないのだ。
「ちくしょう……」
繰り返しのプレイで積み重ねた原作知識など、おそらく大して役には立たない。
肝心な前世の記憶も断片的で、細かな部分に欠落が目立つ。
かつての自分の名前すら
第一、シリーズ内では比較的小規模な舞台とは言え、固有グラフィック持ちのネームドキャラクターだけでも五十人近く存在するのだ。
そんな大人数が七つの国で暴れ回る群像劇の全てを、相互関係や時系列の順序に至るまでライト層プレイヤーがいちいち覚えてるワケがない。
「…………」
どうするべきか。どうすればいいのか。
大人しく滅びを待つことしかできないのか。
──否。
「まだ……まだ本編が始まるまで、時間はあるハズだ」
フレアエルド戦記外伝は、
すなわち、まだ猶予は残されている。
今の自分には何もできなくとも、
「成り上がるんだ。国だって動かせるくらいに」
そして、辿り着かなければならない。
ついぞ前世では見られなかった、一作目に続く正史とは外れたシャイア滅亡回避の特殊エンディングへと。
「まずは──」
気炎を吐くジャックの腹が、ぐるるると鳴った。
「…………今日の飯代、稼がないとな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます