第1話 思ってたのと違う

 誰もいない朝の教室。私の一番の楽しみである。理由は暖かいから。

 その幸せな一日の始まりはひとりの男によってツッコミの終わらない一日の始まりになった。

「おはようっ!茅ヶ崎さん!早いんだね!」

 ……私は先日告白された男。

 嘉賀陽。同じクラスでとなりの席の同級生である。

 話したことはもちろんない!

「おはよ。嘉賀さん」

「……ねえ、陽って呼んで?」

 なんで??

 疑問しか浮かばなかった。

 基本的に嘉賀さんは陽呼びを好まないと聞いている。何なら学校中の常識。

 確かその理由が…

「俺!茅ヶ崎さんだから呼んでほしいんだよね!好きだから」

 好きな人にだけ呼んでもらいたい。からである。

「……じゃ、私は亜紗妃でいいよ」

 ぱああっと嘉賀さんの表情は明るくなった。

 なんだこの生き物。犬の化身じゃん。かわい。

「亜紗妃!」

「……」

 手で頭を押さえる。

 呼び捨ては…破壊力だろ。

「なに」

「陽って呼んで!」

 ……これで呼んだら私は嘉賀陽の好きな人です。と言っているようなものである。気恥ずかしい。

「……いつかね」

「え~!今がいいのに…」

 てか忘れてたけど、この人…クールキャラじゃね?

 変わりすぎじゃね?

 てか、朝早いからだれもいないし。

「はよ~!!…ん?嘉賀と…茅ヶ崎?」

「おはよ、佐藤さとう

「おはよう」

 同じクラスの佐藤くん。クラスの中心的人物である。

「え?お前ら付き合ってんの?」

 のおおおおお!!!付き合ってない!!

「ううん、まだ付き合ってない」

 ……まだ??付き合わないよ??

「え?あの…」

「ああ!悪い悪い。嘉賀の片思いだっけか」

 否定しようと口を開いたその時、佐藤くんが言った。

 ……知ってんの?!!?

 やばい、ツッコミ追いつかないって。

「ま。あとは茅ヶ崎さん次第か。」

 じっと佐藤くんが私を見る。

「……嘉賀さん。」

「ん?」

「誰が知ってるの?」

 少し考えたそぶりを見せ、言った。

「……俺の仲いいやつらと~」

 仲いいやつら?!どの範囲で?!どんだけ言ってんの!?

「……あれ?みんな知ってね?」

 ……終わった。学校中知ってるの?

 友達が嘉賀くんが近く通るたびににやにやして私を見るわけだ。

 付き合わなきゃいけないやつじゃん。学校一のイケメンふった女になっちゃうじゃん!!

 ……まあ気になってなかったわけじゃない。

 付き合ってもいいと思ってる。軽い気持ちで付き合うのもどうかと思ってる。

「……私は軽い気持ちで付き合いたくない。」

「…俺を知ればいいんだろ?」

 ……!!

「任してよ。俺らが一緒にいてもみんな知ってるし俺の片思いだと思うだろうから。というか、付き合っていいんだったら、いいって思ったら名前で呼んでよ。陽って」

「…わかった」

 いいかもしれない。こういう関係も。

「……え?嘉賀ってそんなキャラだった?デレすぎじゃね??恋するとってやつ?」

「さぁな」

「キャー!」「みて!あれやばいって!」「…ついに嘉賀が動き出した」「きゃあああ!お似合いすぎっ!」

 っと外から黄色い悲鳴が聞こえる。

 ……え?みんないるじゃん…。なんで?

「おはよ、みんな」

 爽やかイケメンなだけあって挨拶してるだけなのに花が見える。

「亜紗妃。おはよ」

「おはよう。美夏みか

 美夏はおんなじクラスになって仲良くなった友達。

「……いつから知ってたの?」

「ん?嘉賀のこと?」

 そうだよっ!それ以外あるか!

「ん~、最初っから。」

「……最初っていつ?!」

 すると少し考えてから言った。

「え?入学式」

 にゅうがく…しき。

 え??何かしたっけ?

「入学式から私のこと好きなの?嘉賀さん。」

「ん~、らしい。一瞬でお似合いだ―ってなってたよ」

 ……なぜにお似合い??

「学校一のイケメンと私じゃ釣り合わないって」

 美夏は怪訝そうな顔をしていった。

「……えええ?!!あんたしらないの!?学校の美少女でしょ!?あんた」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る