竜星
エルクリッドは思い返す、ヒレイと共に強くなると誓った見た夜空を。
エタリラの夜は常に月がある、そして星もまた大小様々に輝いて、時折流れる星に願いを込める。
満月の夜空の下、満天の星の下でエルクリッドとヒレイは最後の勝負に挑む。尊敬すべき師への感謝と敬意を、これまでの自分達の全ての想いを、そのカードに込めて。
「ホーム展開、流星の煌き! そして……ドラマを展開させます!」
「っ、そのカードは……!」
「師匠を倒す為にずっと考えてた、あたし達の切り札です!」
エルクリッドが使ったカードにクロスは驚愕するしかなかった。ホームカード流星の煌き、そして同時に展開されるドラマの条件を今現在満たしていると。
ホームカードが秘めるドラマを展開するにはその状況を作る必要があり、狙う程に読まれやすく逆に利用されたりその前に対処される。
だからこそ、決まった時の恩恵も大きい。何よりもクロスが驚いたのは、自分が教えた基本に従って最適な瞬間にカードを使った事であり、流星の煌きのドラマの条件、相手のアセスが空に飛んでる上に強化スペルを受けていて自分のアセスは満身創痍で闘志を失っていないを満たしていたから。
赤き流星が流れると共に傷ついたヒレイが翼を広げ高く翔ぶ。やがて全身を白と赤の光へ包み込んでカイよりも高く天へと躍り出ると、向きを変えて狙いを定める。
「ドラマの名は竜星光……! 行きます!」
流星となったヒレイが凛としたエルクリッドの言葉と共にカイへと突撃し、それをカイも渾身の光線で迎え撃つ。
徐々にヒレイが押し切るかに見えたがカイも残る力を振り絞って光線を強めて巻き返し、そのまま拮抗状態となり凄まじい力のぶつかり合いで島が揺れ世界に響く。
夜の空を閃光で真白に包む刹那にタラゼドが防御結界を展開すると同時に
結界越しでも伝わるものにタラゼドも両手を前に構えるが押されそうになり、それを背を押してノヴァ達が支えながらエルクリッドとクロスの決着がどうなったかを思う。
(エルクさん……クロスさん……!)
光が消える中で二つの影が墜落し、一気に時が流れるかの如く舞い散る砂煙の中で二つの影が佇むのが見えた。
一つはエルクリッド、もう一つはクロス。そして二人の傍らで全身傷だらけとなりながらも目を光らせ唸るヒレイとカイも健在であり、向かい合ったまま沈黙が続く。
やがて揺れが治まり風が止むとヒレイが血を吐いて前のめりに倒れ込み、エルクリッドも全身から血を噴き出して足から崩れ落ちる。
「エルクさ……」
目を見開き駆けつけんとするノヴァをタラゼドが腕を前に出して制止すると、エルクリッドが両手をついて吐血しながらも膝に手を置いて立ち上がって見せ、それを見届けたクロスがふーっと息を深く吐いて彼女をまっすぐ見つめ言葉をかけた。
「お前達の想いの強さ、よくわかった。本当に、強くなったなエルク、ヒレイ……」
穏やかな笑みをクロスが見せると共にカイが横に倒れながらその身をカードに戻し、エルクリッドと同様にクロスも全身から血を噴き出し崩れ落ちそのまま倒れ伏す。
一瞬の間をおいて弱々しくヒレイが首だけを動かして目の前に倒れているクロスと、彼の手元に落ちている色彩を失ったカイのカードを見て微かに身体を震わせる。
「勝った、のか? 俺達は……」
「多分、そうだね。やっと……師匠達に……」
目の前の事実を受け入れる間もなくエルクリッドもプツンと糸が切れるように倒れ込んで意識を失い、それと同時にヒレイも完全に力尽きカードへと戻り色彩を失う。
戦いの終わりを悟ったタラゼドが手を下ろすと真っ先にノヴァがエルクリッドの下へと駆けつけ、シェダとリオも続き、それを見届けてからタラゼドはクロスの方に歩み寄り薄っすら目を開く彼にお疲れ様ですと声をかける。
「すぐに治療を」
「俺よりも先にエルクを頼む、あいつには、まだ戦いがあるからな……代わりにカードを抜いてくれ、ここまで疲れたのも久々だ」
「わかりました、ではそのように」
クロスの願いを聞き入れたタラゼドが彼を仰向けにしてカードを代わりに引き抜き、ヒーリングのカードを手に取らせてからエルクリッドの方へと向かう。
既にエルクリッドはノヴァがヒーリングのカードを使っていたものの意識の回復とまでは行かず、タラゼドが手をかざして癒やしの魔法をかけると咳き込みながら意識を取り戻す。
「あっ……みんな……あたし……」
「お疲れ様でした。ですが今は手当てが先です、もう少し目を瞑っていて構いません」
「そう、ですね。今は……」
虚ろな目を再び閉じて力なく眠るエルクリッドにノヴァ達は安堵し、タラゼドは治療しながら月を見上げる。
エルクリッドにはまだ戦いがある、クロスの言葉の意味をただ一人理解していたから。そして、それがこの旅の終わりとなるものとわかっていた。
NEXT……
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