想い重ねて

 星空の下で幾度もぶつかり合うヒレイとカイが組み合った状態で地上へ激突し、身体を擦らせながらも構わず相手に爪を立て、牙を立て、そして離れ威嚇し合う。


 カードによる支援をしても真化したアセス同士の対決ではあまり有効打にならず、それこそ手の内を知る相手同士となれば相殺させる事も難しくはなかった。


(そろそろ、あのカード使わねぇとな……エルクの奴もそれを待ち構えて本気で攻め切らず、俺の手を上手く流してるからな……)


 汗を流し息を切らしながらもエルクリッドが虎視眈々に待ち構えているのをクロスは察する。以前彼女に貸し与えたカード、その存在をしっかり覚えて警戒してるのには嬉しさもあれば、少しの寂しさも感じられ、静かにそれを引き抜き見つめる。


(エックス……お前が使えと言った奴を相手にこれを使う。俺の自慢の弟子を相手に、俺の思いを受け継ぐ奴に、全力で勝つ為に)


 ほのかにカードが光り、クロスは意を決してそのカードを掲げ魔力を込めエルクリッドもゴーグルを下ろして身構えた。


「行くぞカイ、霊術スペル発動イクスハート! 俺の相棒が残したさらなる高みに導くカードにより、限界を突破せよ!」


 空中に現れたいくつもの火輪をカイが飛翔しくぐり抜ける度に紅蓮の炎がその身を焼き、全てくぐり抜けた時にはカイの全身が炎で包まれる。

 そして刹那にカイの目が輝くと同時に炎が弾け飛び、漆黒の鱗に燃える炎のような紅い文様を刻み込み、黄金の外骨格も赤混じりのものへと変えたカイが姿を現した。


「これが俺の最大奥義、二段真化……零紅黒真竜れいこうこくしんりゅうカイの姿だ……!」


「さらなる真化をするカード……! そういう使い方ができたんですね」


「相棒が残してくれたものさ。離れていても俺達は繋がっている証として……そして、いつか同じような奴が現れた時に、思いをたくせるか試す為に、な……」


 真化のさらなる段階には驚きはするが、エルクリッドもヒレイも思っていた程の同様がないと感じ取る。

 クロスにとってまさに最後の切り札を引きずり出せたとこまで来たならば勝利も近い、無論敗北の危険も高くはなったが、見えてきた結末に頬をパンっと叩きエルクリッドは前を見据えカードを抜いた。


「ヒレイ、出し惜しみなく行くよ! 霊術スペル発動、エルク・トゥ・ドラグリッド!」


 赤く輝くカードを発動し、その光を受けたヒレイが大気を震わせる咆哮を放ちカイも同様に吼えて応える。


 刹那に赤き残光を残して二体のドラゴンがぶつかり合う。すれ違いざまに爪で互いの角を切り落とし、反転し火炎弾と光弾を吐きつけぶつけ合い炸裂する攻撃が風を巻き起こす。


 アセスがぶつかり合う中で、エルクリッドはカイを通してクロスのかつての姿が見えた。それはカイがクロスではない人物のアセスだった頃の記憶、アセスとなった経緯、そこからの記憶、さらに進むと誰も知らないクロスと、彼と別れたというアセス・エックスとの誓いも。


(そっか……師匠はずっと約束を守る為に頑張ってきたんだ。大切な、仲間との約束を)


 奇しくもクロスも幼き日に親を失って幼体のエックスと出会ったというのは、エルクリッドがヒレイと出会った経緯と同じだった。


 そうした点もクロスが何かを思い、そして師事を請う事に応えた理由なのかもしれないとエルクリッドは感じ、あぁそれでかと納得しながら目を瞑り微笑む。


(あたしが生まれてからここまでの事は運命とかで決まってたのかもしれない、でも、その中で選んだ事はあたし自身のもの……あたしの可能性を、自分で見つけたこと。そしてそれに応えてくれた師匠達がいたから、前に進めたんだ)


 放たれる炎と光線とが掠めながらヒレイとカイの両者を捉えて外骨格を粉砕しよろめかせる。最早満身創痍、しかしその目の光は消えることなく二体のアセスはリスナーの想いを力に変えて、その身が幾度傷つき失われようとも折れない心となる。


 二段真化を果たしたカイに対して霊術スペルでの強化のみのヒレイは効果が切れれば劣勢は必至、だが、身体に纏う赤き光が消えてもヒレイの力は衰える事なく、振り抜かれる鋭い爪がカイの顔を剥いで片目を潰す。

 すぐさまお返しとばかりに胸を爪で貫かれたがヒレイはそれを掴み、強引に抜いてからその腕に火炎弾を放って焼き尽くしさらに突っ込んで地上へと自分もろともカイを叩きつけた。


(エルク、お前は俺とよく似てる。そしてバエルの奴にも……もう俺が見守らなくてもお前達は前に進める、それだけの力と、思いと、心の強さがある……)


 手を静かに握りながらクロスはエルクリッドの修行時代と、その裏で調査をしていた彼女の秘密とを思い返す。

 かつて終わらせたはずの災いの残り火。その要となる存在を自分の弟子とした事には複雑なものはあったが、クロスはまっすぐに前を進もうとするエルクリッドの目の光を信じた。


 そしてそれは今も変わらない。だからこうして戦っていると、この戦いをもって彼女を見守る事を終えつつ、最後の壁として尽くすと覚悟を決めカードを切る。


「古の誇り高き一族の魂よ、折り重なる調べを現に闘う者の力となせ! スペルブレイク、ドラゴンブレイブ!」


(ドラゴンの力を極限まで引き出すスペル……! 決め切るつもりだ……!)


 尻尾を噛み千切られながらも飛翔したカイが月を背後に己の力全てを口内に蓄える光に集束し、そこへさらにドラゴンブレイブによる力が加算されて紫の光を纏いその力を高めていく。


 ヒレイも起き上がるが膝から崩れてしまい、エルクリッドも準備段階だけで天地を震わせるクロスとカイの最後の一撃を前に退きそうになる。

 だが、そうはせずに前に一歩踏み出し、残る力を振り絞ってカードを抜く。


「ヒレイ、この日の為に、この時の為だけに考えてたやつをやるよ。いけるね?」


「いけるか、ではなくやるか、だろ。やるぞエルク!」


「うん!」


 それはいつかの未来を想定したもの。いずれ師と戦う時にと用意し、使わずにいたカード。


 ヒレイが自身を奮い立たせるような咆哮を上げて満身創痍の身体を起こして備えると、エルクリッドも意を決しそのカードに魔力を込める。正真正銘最後のカード、全ての想いを込めて。


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