読み合う
アースフォールが降らせた岩が静かに消えていく中で、ダインとイクスはそれぞれのリスナーの前へと戻り身構える。
そこから次の攻撃、とはいかず、エルクリッドもクロスもカード入れに手をかけたまま前を見て無言で対峙するのみ。
静かに呼吸をし、額に汗を流し、アセスと共にじっと耐えるように時を待つ。
リスナーの読み合い。常に代わる代わる戦況の中でそれをするが、見知った相手の場合は頭を使い戦況を思考する。自分の手に相手はどう返し相手の手に自分はどう対処するのか、アセスがどう動いてどう判断するのか、想定外の手はあるのかどうか、それらを考える間にも日は落ちて緊張感だけが張り詰めていく。
ノヴァ達が固唾を飲む中で月が明るく舞台を照らした刹那、意を決したエルクリッドが目を見開きカード抜いた。
「スペル発動アースバインド!」
舞台を割って木の根がイクスに向かって伸びて絡みつこうとし、それを爪で裂いてすかさずダイン目掛けて駆ける。これにダインも真っ向から走っていき、両者譲らずに激突しお互いに仰け反った。
イクスを追うアースバインドがその瞬間に絡みつきはするものの、すぐさま尻尾で切り裂いて脱すると高く跳んで真上からダインに迫る。
「スペルブレイク、アースソーサリー!」
カードを抜いて掌で握り潰して発動するクロスもまた攻めへと転じ、ダインの周囲を砂の壁が渦巻きそのまま閉じて逃げ場を奪う。
物理と魔法の同時攻撃にプロテクションのカードを抜きかけたエルクリッドだが、ダインが足に力を入れながらやや身体を伏せた姿勢を取ったことから手を止め指示を飛ばす。
「思い切り行って!」
閉じる砂嵐から脱するようにダインが跳び、そこへイクスが爪を閃かせた。
瞬間、爪に引っかかったホーリーベールと手応えのなさをイクスが察し、帯が身体を締め付けそのまま力強く下へと引っ張られダインの牙が喉元を捉え噛み砕く。と同時にイクスの尻尾がダインの心臓を刺し貫き、両者組み合ったまま落下し刹那にカードへ戻り手元へと帰る。
(相討ち……でも本番はここから……!)
アセスの数は同じ、だがクロスの控えたるアセス達の実力はエルクリッドもよく知っている。そしてそれはクロス側も同様で、恐らくは想定してる戦術もほぼ同じだろうとも。
(確実に一人ずつ潰す、か。その為に攻め主体で使わないカードもあるなら、先に使った方が不利……どうするか)
確実に数を減らしてくとなれば、アセスをダウン状態にする代わりに発動するスペルは使い辛い。無論、その状態を回復するカードもあるものの、次のカード使用までの充填を考えると最適解とは言えない。
何よりクロスとエルクリッドは同じような戦術を展開するリスナー同士で、師弟である事から性格やカードの采配も似通う。ここでクロスは自分が知らないエルクリッドの動きを読む必要があり、エルクリッドはクロスが見せてない手札を予想する必要があった。
(師匠が次に出すアセスはシュナイダー、パンツァー、イェーガーのどれか……あたしがぶつけるべきアセスはそれを見てから決めるとしても、そこは師匠もわかってる)
(俺が先にアセスを出すまで待つつもりか……いいだろう、あえて乗ってやる)
エルクリッドの考えを読みクロスがカード入れからカードを引き抜く。
動かぬならば動かしに行く、それもまた教わった事とエルクリッドは思いながら身構えカード入れに手を置く。
「脅威たる存在を撃ち抜け、パンツァー!」
カードが閃光を放ち、ずんっと重々しい音と共に召喚されるのは大ハリモグラのパンツァー。細長い鼻先で匂いを感じ取り、エルクリッドに気づくと身体を震わせて両手を上げる愛嬌のある仕草をし彼女を微笑ませた。
「久しぶりだねパンツァー。でも、今日は全力で来てよね!」
穏やかな笑みから凛とした佇まいへ切り替えたエルクリッドがカードを抜き、応えるようにパンツァーも針を逆立て臨戦態勢へ。
「お願いします、スパーダさん!」
黄金の風が吹きそれを断ち切り金色の鎧纏う
「スパーダさん、ちょっと出番早いけど……」
「お気になさらずエルク。パンツァー相手ではセレッタやローレライでは辛いでしょうし、ヒレイもまだ出せませんからね」
金属質の太い針をいくつも生やすパンツァーが見た目通りの堅牢さを持つこと、その針を利用した攻防に対抗できるのが自分というのをスパーダは理解している。もちろんそれはエルクリッドも同じで想定内だが、クロスの方も同じくスパーダが出てくるというのを分かっているとも。
(三番手くらいと思ってたけど、二番手か……流石に師匠は、あたしの嫌な事分かってる)
苦笑しながらもエルクリッドは頬をパンっと叩き気を引き締める。始まった以上は最後までやり切るしかない、あとはいかに勝利へ導くか、読み合いを制していくかだから。
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