全力全開
「ツール使用ホーリーベールッ!」
「スペル発動クリアーフォース」
清らかなる衣をダインが纏って身構え、イクスは灰色の光を纏い能力を高めた。ツールによる強化とスペルによる強化、エルクリッドとクロスの考える事は同じだがその方向性は異なる。
牙を剥き噛みつきに来るイクスにダインは最小限の動きで回避行動をし、続けざまに繰り出された槍のように鋭い尻尾も避けて逆に噛みつきそのまま勢い良く放り飛ばす。
刹那に背負う円環をダインが解き帯としてイクスの両足を捕えんとするが、ギロリと空中で体勢を変えたイクスが睨みを飛ばしながら帯を爪で切り裂く。
(流石はイクス……乱暴だけどちゃんと相手を捉えてるね。でもそんな事はあたしは覚えてるし、師匠だって誘いかけてるのもわかる!)
よく知るからこそ把握でき、それ故に仕掛けられる罠も見える。だがそれでもあえて火中の栗を拾いに行く如くカードを引き抜き、その判断にクロスも即応しカードを抜いた。
「スペル発動アースフォール!」
「スペル発動スペルガード」
巨大な岩塊が空中に現れて音を立てながら崩れ岩の雨を降らし、その中でイクスをスペルガードの結界が包み込む。
降り注ぐ岩を飛び移ってダインがイクスに接近していくものの、イクスも自らスペルガードを切り裂いて脱すると岩を尻尾で弾き飛ばしてダインを狙って行動を阻止し、道筋を変えられた事でイクスが岩を飛び移って攻撃態勢となる。
スペル攻撃が続く中でイクスとダインは闘争心を剥き出しに相手を狙う。爪が身体を裂き、牙先が一瞬刺さっても噛みつかれる前に振り払い、イクスは尻尾で刺し貫こうとしてもホーリーベールが破られるだけでダインは攻撃を掠めるのみ。
やがて岩の雨が止んで積み上がった岩山が
「流石にこっちのアセスを知られてると不利だな。前のお前ならそうした事も問題じゃなかったが……」
「そりゃあたしだっていっぱい戦ってきましたから! だから、師匠達も全力で来ないと負けますよ」
一旦下がったイクスを見ながらクロスが改めてエルクリッドの成長を口にし、それに対し凛と答え挑発してみせた。
今までならそんな事はできなかったし、誘いでもなければそうもしなかった。だがこうして序盤戦を戦えてるとなればそれはエルクリッドに己の成長を自覚させ、この戦いの中でも研磨されてるのだとわかるもの。
まだまだ成長する、やる気と明るさだけは一人前だった弟子の予想外の成長にはクロスも小さく笑みを浮かべ、次の瞬間にはキリッと目つきを鋭くしカードを引き抜く。
「全力で来ないと負ける、か。確かにそうかもしれないな、それだけ今のお前達は強い、だが俺達もあの頃から止まってたわけじゃあないんだぞ」
瞬間、クロスの滾る魔力が風を呼び、同時に姿勢を低く構えたイクスがダイン目掛けて走り出す。
右へ左へ、大きく小さく不規則な蛇行運動で翻弄しながら迫り、それにはエルクリッドも判断に迷いそうになるがカードを抜いて構え、ダインが目で追えてる事から心乱れる事はない。
(この状況で師匠が使うとすれば妨害系スペルか、イクスを強化するツールのどっちか。でも、そうじゃない可能性もあるから……)
気を引き締め直したクロスの考えをエルクリッドは読もうとするも、予測がつかず焦燥しかける。だがすぐに迷いを断ってカードを入れ替え、直後にクロスが動く。
「ツール使用、疾風剣」
意外なカードが使われた事にエルクリッドや見守るノヴァ達にも驚きが走る。軽く風のように振れる疾風剣だが、リンドヴルムであるイクスはそれを手に持つ事はできない。
天より落ちて突き刺さるそれをイクスは持ち手を咥えて回収すると引き続き素早い蛇行運動を続け、瞬間、切り返しの際に疾風剣を外側へと捨てた。
捨てられた疾風剣へダインが目を引かれ、すぐに陽動とエルクリッドが察した事から目線を戻すもそこにイクスはなく、跳躍し上から飛びかかる。
刹那、鋭い爪の一閃がダインを引き裂いたかに見えたが、擦るような音から攻撃が届いてないとクロスはすぐに察しイクスも下がり、エルクリッドが発動したプロテクションの膜がダインを包み込むのを捉えつつ疾風剣をカードへ戻す。
(狙いは見えずとも最適解を出せる、か。かなり成長したらしいな……さて、どうやって勝つか)
(プロテクション間に合ったから良かったけど、目の良さを見抜いて来るなんて……参考にしないとね)
お互いに相手の分析をしながら次の手を考える。様子見をやめて最小限の一手で決めようとしても届かず、成長を感じ促す。
これまでの経験が咄嗟の判断の最適化となりできるようになってるエルクリッド、そんな彼女に対し見せた事がない手を使いながら予測を越える一手を思案するクロス、全力の師弟対決はまだ始まったばかりだ。
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