守り手
リンドウの一太刀がクーレニアの鱗を切り裂くが、鱗を飛ばしただけで身体に届いてないのを手応えから察し舌打ちしてすぐに地上へ降り、ラン共々距離を取り直しヤサカも武器を手元に戻しクーレニアを追撃するも容易く避けられる。
真化しているアセスの力は様々だが、クーレニアは守護竜の名前に相応しく通常攻撃だけで倒すには厳しい。
だからといってシェダとリオが対抗して真化したアセスを出しても勝てるかは別の話。何よりまだ見えてないノゾミの手札を使わせ、そこから勝利への戦略を組まねばならないのだから。
「ヤサカ、もう少し切り込めるか?」
「……御意」
忠実に役目を果たすといった様子のヤサカの答えに深呼吸をしてシェダはカードを抜く。
刹那にクーレニアが翼を羽撃かせて風の大刃を放ってヤサカ達を横一閃に断ち切りに来るが、すかさずランが前へとびだし大剣を振り上げ切っ先で上手く軌道を逸し天へ飛ばす。
その瞬間にリンドウが俊敏に駆け抜けクーレニアに切りかかるが、風の膜がそれを防ぎ止める。
「ツール使用ミスリックアーマー、クーレニア、そろそろ仕掛けるよ」
白銀の鎧をクーレニアが身体に纏い、真白の紋様を浮かべると共に美しい声で叫びその音圧でリンドウを飛ばす。入れ違う形でヤサカが前へと飛び出し一気に懐へ入るが、クーレニアが鎧を纏う腕を振り上げたのを見てすかさず刃を前に出しそのまま鍔迫り合いを展開し火花を散らす。
「スペル発動ウォリアーハート! そのまま押し切れ!」
強化スペルを発動し声を飛ばすシェダにヤサカが目を大きく開き一歩前へ踏み込みクーレニアを弾き飛ばす。体勢が崩れた所へすかさず半月状の刃を放って仕留めにかかる。
瞬間、風を纏う翼を閉じて盾としてクーレニアは攻撃を防ぎ切り、鎖を引いて刃を戻しながら跳び上がったヤサカが二刃を振り下ろし強烈な一撃を放って翼を両断しにいく。
強烈な衝撃が快音と共に響くもののヤサカの刃は翼を断つに至らず、ギチギチと音を立てながら接触部が赤熱化し押し合いを続ける。
刹那にクーレニアが口を開け風を収束させながら狙いをつけたのを見てヤサカは刃を弾いて離脱し、頬を掠める風弾が背後の大地を穿つ。
(流石に簡単に倒せはしねぇか!)
着地するヤサカへ続けざまに風弾をクーレニアは吐きつけて攻め続け、それを見ながらシェダはカードを抜く。
単純な力であれば
「スペル発動エアーソーサリー! ヤサカ!」
切られたカード効果を受け風を纏うヤサカの刃が振り抜かれると風の刃が放たれ空を断つ。クーレニアが身を翻しながら避けた事で攻撃が止み、その刹那を狙いランの肩を足場にしたリンドウが跳んで鎧の隙間に細剣を突き刺す。
(ちっ、浅いか!)
剣の先端部がクーレニアの首筋に刺さるもそれ以上とは行かずに空中へと逃げられ、反転したクーレニアの風弾を剣で防ぐリンドウが地面へ叩きつけられランにすぐさま起こされる。
受けた傷の反射でピッと小さな傷を首筋に作り静かにノゾミは血を流すも前を向いたままで平静を維持し、カードを引き抜くと自分の顔の高さに投げ両手で挟み込む。
「黄昏へ招く事象を詠え、理に流れる調べに触れ、光、影、擬、賽、命、魔、六天に祈り血を捧げ牙と成す……! スペル発動、ブラッディアンセム……!」
ノゾミが詠唱を言い終えると共に手を開き、挟まれていたカードが赤い閃光と共に破裂するように消滅し発動される。
一瞬の間の後にポツポツと赤い雨が降り始め、やがて雨粒が大きくなりながら大地を穿く程となって戦場を赤く染め上げる災厄へと変わり、咄嗟にシェダとリオはプロテクションのカードを使って自分のアセスを守る姿勢に入った。
だがブラッディアンセムの災禍は終わる事はなく、雨が止んで地表に残る赤い水溜りが渦を巻いて中心に大口を開く様相へと変わる。プロテクションで守られはしても動けなくなり結界ごと流れに巻き込まれているヤサカらは脱する事ができず、攻撃時間が長い事で守りが先に途切れるのをシェダ達も察しカードを抜く。
「スペル発動エスケープ!」
「ホーム展開、デュエルゾーン」
カード化しかけたヤサカらが再びプロテクションに守られた状態へと戻り、刹那に結界が解けて混濁たる赤の渦へと巻き込まれていく。
お互いにアセスを戻す事ができなくなるデュエルゾーンのホームカードをノゾミはすかさず展開して逃げの択を奪いつつ、それでいてスペルの範囲にクーレニアは巻き込まれないよう滞空する。僅かにホームの方が適用が早い点も利用した攻撃にはリオも舌を巻くが、刹那に渦に巻き込まれながらもランがリンドウを投げるようにクーレニアに向かって飛ばす。
すかさずクーレニアは風弾を吐きつけリンドウを撃墜するものの、瞬間、下方から投げられたヤサカの刃が身体を切り裂く。
渦に巻き込まれながらも繰り出した攻撃は一瞬の油断を突いたものの直撃させるには至らない、しかし、すぐにノゾミは何かを察しクーレニアへ呼びかけようとするが刹那にヤサカが鎖を引いて刃を戻し、返ってくるそれが純白の鱗を断ちクーレニアの左翼を半分と左腕を切り落とした。
(攻撃に巻き込まれながらも最後まで機会を狙って……己の身を削ってでも、か。お見事、ですね)
ブラッディアンセムに飲み込まれ沈み渦の中心にて噛み砕かれたヤサカらの反射がシェダとリオの二人を襲い、全身を裂き血を飛ばすが膝を折ることなく僅かに揺らめくに留まる。
強い意思が力を与え生み出す、意思の源は何かへの想いがさせるもの。それを感じながらノゾミは微笑み、クーレニアが苦悶の声を漏らすと共に左腕が裂け血を流すのだった。
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