迅雷飛翔
カードへ戻ったアセスをカード入れへ戻し、ヒーリングのカードを抜いてシェダとリオはまずは傷を癒やし次に備える。
かたやノゾミは傷を癒すことなく左腕を動かして手を握って動くかを確認し、一度地上へ降りたクーレニアと目を合わせ状態を確認し再び前を向く。
「流石はここまで来たリスナーだけあります、デミトリアが言っていた事の意味もよくわかりますね」
デミトリアの名前がノゾミの口から出た事でエルクリッド達に驚きが走る。直後に目を瞑ってからノゾミはさらに語り、デミトリアとの関係を明かす。
「自分の役目はこの門を通るに値する者を試す事、然るべき時以外に神が望んだ者を観測する事……デミトリアはかつて魔獣の王と心を通わせ世界を救った、その時に出会っています」
「そんな昔に……」
「次の世代を育てる事で災禍が訪れても乗り越える者達を輩出してく、あなた方くらいの頃からデミトリアはそう語っていました。その事を、こうして相対してより深く理解できたということです」
若き日のデミトリアの功績は今の時代に、その先の歴史にも刻まれ続けるもの。だが自分がいなくなってからの事を既に考え、必要な事をし続けてたとなればその思いの強さや、先人として後人の試練となって自ら戦う事の思いの深さも改めて分かる。
そして自分達がいずれはそう思い託す側になる意味も、少しだけ理解できた。今まさに、次を担う者が傍にいるから。
「さて、改めて続きをしましょうか。自分も、クーレニアも、役割を果たす事に私情を挟む事はしません、持てる全てを込めて来てくださいね」
改めて臨戦態勢となったノゾミに促される形でシェダとリオがカードを抜く。ヤサカ、ラン、リンドウの散り際の行動によりクーレニアに傷を負わせられた事や、その後傷を癒やす事をしない事からある疑念も浮かぶ。
(ヒーリングくらいは持ってそうなのに使わねぇって事は、使えない状態かそもそも使わないか、だな。誘いかもだが、そういう感じはねぇし……)
アセスが傷つく事でリスナーが受ける反射は傷が深い程大きなものとなり、戦闘続行に影響を及ぼす。生命の危険を伴う事や苦痛故に集中力を欠くなどもあり、理由がなければひと呼吸挟む意味もあって治療する事は必須と言える。
それをしないのは戦略的な意味があるか、できない理由があるかということ。少なくともシェダはノゾミはできない可能性で読み、深呼吸をして一気に勝負に出た。
「聖槍持つ英雄よ、黒き迅雷を穿き栄光を掴め! 迅雷槍士ディオン! 門番を倒して、前に進むぞ!」
「神の守護者か……相手に不足ない!」
シェダの闘志に呼応するように迅雷を貫き姿を現したディオンがクーレニアを捉え、刹那に影を置き去りにし一気に相手の背後を取る。
あまりの速さにクーレニアも遅れて気付くがディオンが突き出す聖槍オーディンはノゾミが発動したソリッドガードのスペルで防がれ、すぐにディオンはその場からシェダの位置へと一瞬で戻った。
「英雄ディオン、その名に違わぬ実力に敬意を評します」
「貴公がそう評するほどの力はまだ示してはいない、そしてそれは、真白の竜を討った時にこそ、だ!」
ぐっと聖槍を握る手に力を入れながらノゾミに言葉を返すディオンが再び影を置いてクーレニアへと駆ける。
今度は真正面から懐へ入る形で聖槍をしなるように突き出し、飛翔し空へ逃げるクーレニアの右足を微かに捉えるに留まり、だがすぐに槍を掲げ白と黒の雷を纏い空へと放つ。
「
「クーレニア、風鳴りの壁を」
網目の如く天を切り裂く雷が放たれるのに対してノゾミの凛とした指示を受けたクーレニアが羽撃いて黄金の風を吹かせ、それが雷の渦に対し逆回転の竜巻となりぶつかって弾け飛ぶ。
刹那にクーレニアが口内から風の塊をディオンに向けて連続して吐きつけ、それを躱すディオンもシェダと共に次の攻撃を思案する。
ヒーリングによる治療をせず、片腕と翼の半分を切られても飛べる事はもちろん戦力が衰えないクーレニアと、クーレニアと共に戦いながら的確な指示とカード捌きをするノゾミ相手に、リオも改めて強敵と思いながらカードを掲げ最も信頼するアセスを呼ぶ。
「翼持つ守護者よ、誇り高き名を胸に剣を掲げ降臨せよ! 頼みます、ローズ! そして、武装召令! 霊剣アビス!」
翼を広げゆっくり目を開けた戦乙女ローズが前を見据え、目の前に現れる霊剣アビスを手に取るとそれを引き抜き鞘を投げ捨て空気を蹴り一気にクーレニアに斬りかかる。
刹那の攻撃にクーレニアは片腕の爪を閃かせ、瞬間の動きで受け流しながらローズをいなすと水晶飾りの色を青色へ染め直し、周囲に水の帯を従わせる姿へと変えた。
水属性の霊剣アビスの属性を模倣したというのをシェダ達は察しつつ、同時にクーレニアの属性模倣は一種類だけと勘付く。
(水属性って事は防御主体、風と切り替えながらってのはあり得るが……)
(ローズの属性ではなくアビスの属性を模倣したという事はその能力も限界がある事、そして勝機は……!)
シェダとリオがそれぞれ分析しつつ横目でお互い捉え前へと目を向け直す。それぞれの持つ最強のアセスを出した以上は次はない、ここで決め切る。
それは相対するノゾミも感じ取れる程に強い闘志であり、決して折れることない思いに応えてやりたいとすら思わせた。
(素晴らしいリスナーには勝敗に関わらず、と言いたいですが、彼らが全力を出すならそれにこちらも応えるのが礼儀……そうですよね、クレスティア様……!)
カードを引き抜くノゾミの目に光が灯り魔力が風を巻き起こす。それを受けたクーレニアもまた美しい声で鳴いて応え、最後の攻防へと局面は進む。
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