夢物語
音駒手ぽめら
第1話 本の依頼
図書館に棚が埋まるほどの1人の作家が書いた推理小説シリーズがあり、男は「無くなった本を探してほしい」と依頼してきた。
背表紙には巻数があり、1巻〜4巻そして次は6巻が置いてある。
棚の中で5巻だけが無くなっている。
依頼主の話によれば
【1巻で事件が発生しこの事件は解決していない】
【2〜4巻の事件はそれぞれ1巻の事件の謎を解くヒントとなる別の事件の話が書かれており解決までしている】
【6巻では主人公が新たな事件に巻き込まれている話で解決までしている】
【以降の巻数は1冊で解決まで書かれてある】
「1巻の事件は5巻で解決しているはずだから誰かが嫌がらせで盗んだんだよ!」
たしかに、この推理小説シリーズは人気があるようで多くの人が読んでいる。
話を聞いてまわる。
「全巻読んだ」と言う人もいれば「5巻は貸出中みたいだから飛ばして読んだ」と言う人もいたりと様々で巻数が多いからか記憶が曖昧だった。
この図書館のパソコンで本の在庫を調べてみたが在庫の有無どころか5巻の表記だけが無かった。
私は依頼主に自分の推理を伝えた。
「5巻は存在しない」
依頼主は唖然としていた…
すると1人の老人が現れる。
この小説の作者だった。
老人は私に会釈すると話を始めた。
1巻目を書いた時に自分でも驚くくらい凄い事件、トリック、犯人。
良い話を書いたと思った。
あとは2巻目に解決編を書けば終わり…
そう思った時に疑問が浮かんだ。
「こんなに凄い事件を解決させても良いのだろうか?」
悩んだ結果、ヒントとなる事件を2巻目に書き読者の反応を見る事にした。
そうして、読者に解決させれば種明かしをしなくても良いだろう。
だが、2、3、4巻とヒントを出しても読者が解決できない…
私は意地になって5巻を書かず誰かが解決してくれるのを待ちながら6巻を新しく書き始めた。
君の言う通りだよ。
依頼主は更に唖然としていた。
しばらくして何十年と長く続いたシリーズは完結し最終巻は大ヒットして多くの人に読まれた。
だが、棚には当然のように5巻だけが無い。
翌年、作者が亡くなった。
いまだにシリーズは大人気で今日も図書館には多くの人が来ている。
中でも1番人気は「5巻」
依頼主が笑顔で借りている。
1巻の事件の真相は推理小説界に衝撃が走るほどの内容だったらしい。
巻末のあとがきには一言だけ書かれていた。
「時効」
夢物語 音駒手ぽめら @nekomatepomera
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