第9話 チームワークは大変だ!

狼とムカデは、まるで自然の猛威のように互いを切り裂いた。

爪が甲殻を裂き、牙が毛皮に食い込み、その巨体の重みで森の地面が軋む。


――今のところは上手くいっていた。


だが、霧の奥からクラリッサ先生の声が淡々と響く。

「運に頼るな。適応しろ。試験はまだ始まったばかりだ。」


その言葉に呼応するように、紫の霧がさらに濃くなり、影がうごめき始める。混乱に引き寄せられた小型の霊体たちだ。


「ひ、ヒラくん……」

桜が身を寄せて囁く。「なんか……宇宙そのものが私たちを嫌ってる気がするんだけど?」


「してるからだろ。」俺はぼそっと返す。


霧から現れたのは――影狼。さきほどの狂獣の縮小版のような連中だ。赤い眼を光らせ、円を描くように俺たちを取り囲む。


ミキオが空中に火の文字を走らせる。

《群れで狩る》


俺は歯を食いしばった。

「ならボス同士を戦わせて、俺たちは雑魚処理。単純だろ。」


「単純~?」桜が呻く。「あれ全部、歯の本数見た?!」


次の瞬間、影狼たちが一斉に飛びかかってきた。


俺は正面から迎え撃ち、オーラの刃を閃かせる。斬撃は浅い。だが血ではなく霧に溶け、狼は消滅。ひとつ撃破。


ミキオが地面を踏み鳴らすと衝撃波が広がり、二匹がよろめく。さらに手を打ち鳴らす――轟音と共に消滅。


桜は顔めがけて飛びかかった一匹に絶叫。「やだやだやだやだ!!」

根に足を引っかけて転倒。狼が襲いかかる――が、桜の幻影に衝突して煙と消えた。


「……あれ? 計画通り。今の見たよね?」


俺は無視してもう一匹を斬り裂く。「集中しろ!」


息の合った……いや、“それなりに合った”連携。俺の刃で近距離を裁き、ミキオの音撃で群れを削り、桜の狐火で残りを散らす。だが三匹倒せば五匹現れる。際限がない。


その間にも、狼とムカデの戦いは不利に傾きつつあった。

ムカデは甲殻こそひび割れながらも持ちこたえている。狼は影炎を流しながらよろめき、動きが鈍っていく。


「まずい……このままじゃ虫が勝つ。」


ミキオが空中に文字を書く。

《集中攻撃?》


俺が返す前に桜が叫ぶ。

「いやいや! 逃げるっていう選択肢は!? 普通の人間なら生存本能でそうするでしょ!」


「囲まれてる。」


「……論理、大嫌い。」


次の瞬間、ムカデが巨体を叩きつけた。地面が爆ぜ、衝撃波が走る。影狼の一匹が潰され、さらに大顎が狼の肩に突き刺さる。毒が燃え、毛皮が崩れる。


影狼は断末魔の遠吠えを残し、煙となって消えた。


「は、はは……残ったのは私たちとバグジラだけ……」桜の声が震える。


無数の複眼がこちらを睨み、森が静まり返る。カチカチと顎を鳴らす音だけが響いた。


「……最悪だ。」俺の胃が沈む。


ムカデが突進。地面を裂きながら迫る。


俺は顔面に斬撃を叩き込むが、火花が散るだけでかすり傷。

ミキオの音撃が横を打ち砕き、装甲に亀裂を生じさせるが、反動で頭を押さえ膝をつく。

桜の狐火が複眼を焼き、煙の穴を穿つ。だがそれで逆上させただけだった。


俺たちは三方に散る。巨体が叩きつけられ、木々が折れる。


「駄目だって! 戦車にスプーンで挑んでるみたいなんだけど!」桜の悲鳴。


……その例え、間違ってない。


だが気づく。ミキオの衝撃波が生んだ亀裂。その部分に俺の斬撃は、いつもより深く入っていた。


弱点だ。


「ミキオ! ひびの所を狙え!」


彼が頷き、再び衝撃波を叩き込む。亀裂が広がる。

俺は全力でオーラを刃に込め、闇色に輝かせると、裂け目へと突撃。


――ズガンッ!


甲殻が砕け、ムカデが絶叫。尾が振り抜かれ、俺の脇腹を直撃。衝撃で木に叩きつけられ、息が途切れる。


「ヒラくん!!」桜の悲鳴。


視界が霞み、身体が割れたような痛み。毒滴る顎が迫る。


……ここまでか?


その瞬間、狐火が閃き、ムカデの顔を焼く。

桜が俺の前に立ちはだかり、髪を振り乱して叫んだ。


「こいつは食わせない! ヒラくんをいじめるのは、私の役目なんだから!」


「……それ全然安心できないんだけど。」


だが幻影の群れがムカデを取り囲み、煙と影が入り乱れる。

ミキオが横に膝をつき、胸を叩きながら文字を描く。

《立て。戦え。》


俺は咳き込みながら立ち上がる。「……ああ、まだ終わってねぇ。」


桜の幻影に翻弄されるムカデ。その側面を、ミキオの音撃が短く鋭く打ち砕く。

亀裂が広がる。


俺は全てのオーラを刃に注ぎ込む。手が焼けるように熱い。


「ヒラくん!」桜が叫ぶ。「必殺技のフィニッシュいけ!!」


「そんなのねぇよ!!」


「今できたから!」


ムカデが体を反らし、亀裂が完全に露出。俺は吠えるように突撃し、最後の一撃を叩き込んだ。


刃が亀裂を裂き割り、ムカデの巨体が煙と崩れ落ちる。


静寂。


誰も動かない。


桜が倒れ込み、両手を広げて叫ぶ。「勝ったー! ゼロ班最強!」

ミキオは木にもたれて座り込み、息を荒げる。

俺は膝に手をつき、痛む肋骨を押さえながら息を吐いた。


……どうにか、勝った。


霧が揺らぎ、他の班がまだ戦い続けているのが見える。試験は終わっていない。


だがゼロ班にとって――これが始まりにすぎなかった。


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作者コメント(桜)


うわぁぁぁ〜! みんな見た?! さっきの私の幻術、完璧だったでしょ!

ヒラくんの命を、十回くらいは救ったんだから! 感謝しなさいよねっ!


(ヒカル:「……二秒くらい注意そらしただけだろ」)

(桜:「二秒の差で生死が決まるの! ありがたく思いなさい!」)

(幹生:「……三回目でほとんど気絶しかけてたけどな」)


ま、まあ細かいことは置いといて! とにかく第一ラウンドは生き残ったんだから、みんなコメントとブクマ忘れないでよね!

じゃないと――巨大ムカデけしかけちゃうぞ? てへっ☆

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