第3話 ライバルを作ってしまった

筆記試験から二日が経った。

今日は実技試験の日だ。


またしても母さんに玄関から放り出された。


……うざい。


どうせ実技なんて、能力に関するものだろう。いつだってそうだ。


向かう途中で、またアニーに出くわした。

きっと偶然を装って、ここで待っていたんだろう。


でも、なぜ?


「やっほー、ヒカル! ここで会うなんて思わなかったよ!」


……嘘だな。すぐにわかった。


結局、学校まで一緒に歩くことになった。相変わらずアニーは口を止めない。

校門にたどり着くころには、俺の耳はもう限界に近かった。


案内されたのは巨大なガラスのドーム。


すでに何百人もの生徒が集まっていた。その構造物は、まるで昔読んだローマの円形闘技場のようだった。

俺たちを見下ろすその威容は、ただ一つのことを告げていた。――戦いが始まる、と。


そして、彼女が現れた。


三十代くらいに見える女。長い黒髪をきっちりと束ね、その存在感だけで場を支配していた。

だが同時に、その柔らかな微笑みと金色の瞳は、不思議と心を落ち着ける。


その瞳は時計の文字盤のように輝き、うっすらと時を刻む針が浮かんでいた。


そして身にまとっていたのは真紅の着物。

高度な技術と現代的なファッションが支配するこの時代にあって、それは何よりも際立っていた。


「私は山内キョウカ。この由緒ある学園の、二十代目校長です」


その声は厳格でありながらも穏やかで、ホールの空気を一瞬で変えた。


彼女が手を上げると、目の前に一枚のコインが浮かび上がる。

そこには大きな「A」と翼を模した紋章――エーテル学園の印が刻まれていた。


「取ってください」


目の前のコインを掴むと、冷たい金属の感触が掌に伝わった。


「これからあなたたちはドームの中へ転送されます。内部は私の力で森に変えてあります。

この試験を突破するには――二枚のコインを入手しなければなりません」


二枚? ということは……。


「方法は問いません。では――始めなさい」


あまりにも短い。いや、短すぎる。


視界が揺らぎ、世界が滲んだ。


そして――気がつけば、俺は鬱蒼とした森の中に立っていた。

苔と土の匂いが、鼻を刺す。


これが試験か。


……さて、どうする?


森の中に転送された。

高くそびえる木々、湿った土の匂い――。


これが試験か。


……さて、どうする?


このまま座って、誰かが来るのを待つ。それが一番楽だろう。

完璧だ。


……だが、すでに誰かが見つけてきたようだ。


拳が頭をかすめ、風圧で髪が揺れる。


間一髪で飛び退くと、視線の先に一人の少年が立っていた。


青く乱れた髪。ニヤついた口元。

その瞳は赤く、瞳孔に黒い十字が刻まれている。


黒いジャケットに同色のズボン。中には青いシャツ。

全身が「青」で染まり、その存在からも圧迫感が伝わってくる。


――癪に障る。


「俺はリン・ケンジ」少年は不敵に笑う。「お前のコインは、俺がもらう」


簡単に渡すと思っているのか?


俺は視線を鋭くし、姿勢を正した。

「持つなら、耐えてみせろよ」


ケンジの笑みがさらに広がる。

「心配すんな。すぐ終わらせてやる」


「……失望させるなよ」


次の瞬間、ケンジが突っ込んでくる。


空気が裂け、拳が胸を狙う。速い――速すぎる。


後ろへ跳び、腕で受け止める。

骨に響く衝撃。足が地面を削り、数歩後退する。


「悪くないな」ケンジは赤い瞳を光らせ、不気味に笑う。「でも、それだけか?」


彼の体から血が蒸発するように赤い蒸気が立ち上り、オーラが濃く、重く、殺気を帯びてゆく。


「ブラッド・ラスト」


速度だけじゃない。一撃ごとが鋭く、重く、殺意を含んでいた。


「チッ……」俺は舌打ちし、影を広げる。

影が槍へと変わり、突き出す。


ケンジは首を傾け、頬をかすめただけで避ける。すぐさま間合いを詰め、膝を俺の脇腹に叩き込もうとした。


辛うじて腕で受け止めるが、骨に鈍い痛みが走る。


「影は厄介だな……だが、俺の速さには追いつけない」


……確かに、もう動きを読まれている。

なら、正面からぶつかるしかない。


拳を握り、突進する。

拳と拳がぶつかり合い、森に轟音が響く。


ケンジの拳は獣のように荒々しく、それでいて正確に急所を狙ってくる。

俺は身をかわしながら反撃の右フックを放つが、彼は前腕で受け、すぐさま肘を顎へ――。


影を盾にするが、砕け散る。


「遅ぇよ」ケンジは笑う。


影だけでは足りない。拳が痛みで痺れ、肋骨も軋む。


そして、ケンジの赤い蒸気がさらに濃くなる。


「終わりだ、カゲ・ヒカル!」


右手に蒸気を纏わせ、血が沸騰するように燃え上がる。


「奥義――ブラッディ・フィスト!」


……もし正面から食らえば、終わりだ。


なら――もう、抑える理由はない。


「……アエレス」


俺は小さく呟く。

怒りの神の名を。


熱が血管を駆け抜け、影が獣のように唸る。

拳に紅黒のオーラが宿り、怒りそのものが形を取る。


「怒気の技……」


胸の熱を拳に込める。


「――アンガー・フィスト!」


二人の拳がぶつかる。


轟音。大気が爆ぜ、地面が割れる。

森全体が震え、風が爆発のように吹き荒れた。


そして――沈黙。


次の瞬間、衝撃波が二人を弾き飛ばした。


息を荒げ、立ち尽くす俺。

対するケンジは腕から血を流しながらも、まだ笑っていた。


「……ありがとうよ。いい戦いだった」


そう呟くと、彼は地面に倒れ込んだ。


「……バカめ」俺は小さく吐き捨て、彼が落としたコインを拾う。


光が弾け――気づけばまたドームの外。


皆さんは入学試験の最初のテストをどう思いましたか?

もしヒカルの立場だったら、あなたならどう対処したでしょうか?


ぜひコメントであなたの考えを教えてください。

読んでくださった方の印象に残った場面を知ることができるのは、とても励みになります。


そして、この章を楽しんでいただけたなら、パワーストーンを投げていただいたり、この作品をコレクションに加えていただけると最高の応援になります。

「次を楽しみに待っているよ」という気持ちが伝わり、執筆の大きなモチベーションになるんです!



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