行き倒れの男


 故郷と家族を失って5年が経過したある日のことだった。


「シスター、こいつを診てやって下さい」


 教会にやって来たのな肉屋の主人・ヤニック。屈強な彼は肩に担いできた人物を長椅子の上へと転がす。


「街の入口で気を失って倒れてたんだ。怪我をしてるんで連れてきました」


 倒れていたという人物は私と同い年位の男で、酷く痩せこけている。ボロボロの衣服で隠れていない部分には傷や痣が多くあり、きっと服の下も同じだろうと考える。


「今傷薬を持って来ます」


「いやぁ今日いて下さったのがシスター・ジャネットで良かった。貴女の薬はよく効きますからな」


 田舎育ちで草花に明るかった私は先輩シスターの勧めで本草学を学ぶことにした。するとたちまちのめり込んでしまい、今では私の調剤する薬を求めて行列が出来る程になっている。



 ウールのチュニックを脱がせると、男の体はやはり傷だらけだ。

 薬を塗って包帯を巻くと男は険しい顔を和らげる。

 得体の知れない男だがこのまま放っておくことも出来ず、神父様と相談をして教会でその身柄を預かることになった。

 清潔な衣服に着替えさせた男をベッドへ寝かせる。彼のあどけない寝顔を見つめているとロジェのことを思い出して胸が締め付けらた。

 5年経った今も心に負った傷は癒えず、怨みは募っていくばかりだった。

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