幸せはいらない
私以外の皆が死んだ、いや殺された。
家畜や食料、そして金品が奪われていたので村を襲ったのは傭兵崩れの盗賊だろうという話だ。
どうやら私たちの“国”というのは今争いの真っ只中らしい。王位継承権に端を発したもののようだが、学のない田舎者の私はそんなこと知りもしなかった。
“国”とか“王”とかいうのはいまいちよく分からない、私達は領主様に従うだけで精一杯なのだから。
故郷と家族を失った私は叔父さんの家でお世話になることになったが、赤ちゃんが生まれて幸せの絶頂にいるポールやロザリーに気を使わせるのは心苦しかった。
それに叔父さんや叔母さんは私を家族と言ってくれるが、私はどうしてもそれを受け入れることは出来ない。私の家族は殺された家族だけ、私の居場所は荒らされたあの村だけなのだから。
こうして私は自らの意思で教会の孤児院へ入ることを決め、ゆくゆくはシスターになろうと誓った。
「シスターになったら結婚も出来ず、子どもも生めないわよ? それでもいいの?」
叔父さんの家を出る際にロザリーにそう言われた。彼女の抱っこする赤ちゃんを見ると心が揺れたが、私には母親になる資格などないのだ。
「いいの、もう決めたことだから」
私の胸中には家族と故郷の皆の命を奪った盗賊達への憎悪と殺意が渦巻いている。八つ裂きにして殺してやりたい、より残酷に殺してやりたい、生まれてきたことを後悔させてやりたい──そんな風に思っている女が人の母親なんてとても無理だ。
だから私は神様の近くで赦しを乞い続けたい。愚かな感情を持つ私をお赦し下さい、そして一刻も早く皆の元へと連れて行って下さいと。だって本当は私も皆と一緒に死ぬはずだったんだもの。
「幸せはもういらないの」
私は復讐の炎に身を焼かれながら、いつか皆に出会えることを期待しただ祈り続ける。
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