ジャネットとリュカ
次の日の朝、パン粥と水、そして薬を持って男の部屋を訪れる。男はベッドの上で上半身を起こしてぼうっとしていた。
「目を覚まされましたか? おはようございます」
声をかけると男はびくりと体を震わせ、恐る恐るといった感じに私を見る。
「……あ、その、ここは教会でしょうか?」
か細い声で遠慮がちに言う男に頷く。
「はい、そうです。行き倒れていた貴方を肉屋の主人がここまで運んで来て下さったのです」
「……そう、ですか。……」
男はまたぼうっと虚空を眺めて口を閉ざすが、何か言わなくてはならないことがあるはずだと思うのだが?
「体の傷を勝手に治療させてもらいました。お加減はどうですか?」
恩着せがましい口調で言うと、男は慌ててペコペコと頭を下げ始める。
「あ、まだ少し痛いですが大丈夫です。その、ありがとうございます、シスター」
感謝の言葉を聞いてから、私はベッドチェストに食事を置く。すると男のお腹がぐぅ~と鳴ったので笑いそうになるのを我慢する。
粥の入った器とスプーンを手渡すと、男はガツガツと食べ始めた。
「おいしい! ありがとうございます、シスター!」
「ああ、そんなにがっつくと喉につまりますよ?」
「うぐっ!!」
案の定男が苦しそうにし始めたので背中を擦ってやる。そういえばセレスがよく父さんの背中をこうやって擦っていたな。家族の楽しい食事風景を思い出しながら、私は男に訊ねる。
「お名前は?」
すると男は口の中のものを嚥下してから、私を真っ直ぐに見る。
「リュカ、です。シスター、貴女の名前は?」
なんとなく聞き返されることはないだろうと思っていたので少々驚く。
「ジャネットです」
よくあるありがちな名前だが、村長が私につけてくれた大切な名前を告げると……リュカの顔からサッと血の気が引いた。
「……どうかしましたか? もしかしてお口に合いませんか?」
私は母さん程の料理上手ではないので不安になってしまう。
「あ、いえ。何でもないです、」
リュカはそれ以上何も言うことなく食事を再開させた。
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