第7話 ギルド戦争の幕開け
街の空気が、少しずつ変わっていた。
赤牙の挑発以降、プレイヤーたちは警戒を強め、広場では「白百合に加わるべきか」と囁く声が日常になっている。
ギルド同士の対立は、ただの小競り合いでは終わらない――そんな緊張が、空気の下層で静かに燃えていた。
◇
その夜、《白百合騎士団》の会議室。
剣姫が広げた地図の上には、赤い印がいくつも刻まれていた。
それは赤牙が掌握しているフィールド拠点。資源採取場、ダンジョン入り口、交易路の要衝。
街の周囲は、じわじわと赤牙の支配圏に染められていた。
「彼らは単に挑発しているだけじゃない。もう動いている。……近いうちに、街そのものを封鎖する気よ」
剣姫の言葉に、仲間たちの表情が硬くなる。
僕は無意識にPaneを開いた。
街全体のFavorabilityは+0.4からさらに上昇し、+0.6に届いていた。
街の人々が白百合に期待している証。
けれど同時に、**Aggro Weight(赤牙)**がじわじわと上がり続けているのも見えた。
――狙われている。確実に。
◇
作戦会議の後、剣姫は僕を呼び止めた。
「蓮。あなたのPane……街全体やギルド単位の数値が見えるんでしょう?」
「……っ!? なぜ……」
驚愕で息を呑む。
僕が隠してきた秘密を、剣姫は当然のように言い当てた。
「表情でわかるの。あなたは嘘をつくと目が泳ぐから」
彼女は柔らかく笑った。
「でも安心して。私は信じる。むしろ――その力がなければ、この戦争には勝てない」
胸が熱くなる。
誰も信じなかった力を、剣姫だけが必要としている。
Paneが反応した。
Favorability(剣姫):+0.7 → +0.9
「蓮。……あなたに託す」
剣姫の声が真剣だった。
その瞬間、Paneが強烈に光を放ち、新しい項目が浮かび上がった。
〈Future Bias(未来傾斜)〉:選択によって街全体の運命が変動します。
――未来すら、数値化されるのか。
背筋が震えた。
◇
翌朝。
街の北門が爆音とともに崩れた。
赤いマントの軍勢が雪崩れ込む。〈赤牙ギルド〉の全面攻撃が始まったのだ。
「白百合の騎士団、出撃!」
剣姫の号令に、仲間たちが武器を構える。
僕もPaneを開き、指先を走らせた。
Vector Correction:1.35 → 1.50
Future Bias:+0.0 → +0.2
その瞬間、敵の動きがわずかに遅れ、味方の攻撃が一斉に噛み合った。
広場に戦火が広がり、白と赤の旗がぶつかり合う。
――ギルド戦争が、幕を開けた。
◇
剣姫が大剣を振るい、僕はPaneを操作しながら味方の軌道を補正する。
街の上空に響いたシステムアナウンスが、戦いの重大さを告げた。
〈システム告知〉:都市規模ギルド戦争イベントが発生しました。勝者が街の支配権を得ます。
広場にいる全てのプレイヤーの視線が、戦場へと注がれた。
凡人の僕は、もう二度と戻れない。
この裏仕様と共に、未来を掴み取るしかないのだ。
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