第6話 宣戦布告
次の日の昼、街の中央広場は異様な熱気に包まれていた。
プレイヤーたちが集まり、口々にざわめいている。視線の先には、真紅のマントを羽織った一団。
――〈赤牙ギルド〉。
その中心に立つのは、昨日草原で出会った銀の短剣の青年。
彼は片手を上げ、堂々と宣言した。
「俺たち〈赤牙〉は、この街を支配する。初心者狩りも、資源の独占も、誰にも邪魔させない。挑む者がいれば――潰す」
広場がざわめきに震える。
NPCの衛兵ですら、彼らを止められない。Paneの赤い点滅が見えた。
彼らは裏仕様を通じて、ゲームの制御そのものを乗っ取っている。
「調子に乗るな、赤牙!」
澄んだ声が響いた。
白百合の剣姫が人垣を割って進み出る。純白の外套が光を反射し、広場の空気が変わった。
剣姫の登場に、歓声と安堵が広がる。
「この街は、多くのプレイヤーの居場所。お前たちの暴力で穢させはしない。――〈白百合騎士団〉が相手をする」
広場の視線が一気に剣姫へと向かう。
その隣に、僕も立たされた。
「新入りの補助士……」
「昨日ギルドに入ったばかりらしい」
「大丈夫か?」
囁きが飛び交う。
だが剣姫は堂々と僕を指した。
「彼は凡人じゃない。裏の力を持つ者。――赤牙の継承者に唯一対抗できる存在よ」
どよめき。
視線の重圧に、胸が潰れそうになる。だがPaneが点滅し、Luckがわずかに揺れる。
Luck:3.51 → 3.61
まるで、この状況すら「引き寄せた」かのようだった。
◇
赤牙の継承者は短剣を翻し、薄く笑った。
「へぇ……もうバラすのか。凡人が裏仕様を触ったって?」
「凡人じゃない」剣姫が即座に遮る。「彼は仲間。あなたたちに屈することはない」
「仲間、ね。じゃあ証明してみろよ」
青年が指を鳴らした。
その瞬間、広場に赤い霧が噴き出し、NPC衛兵が一斉に動きを止めた。
霧の中から現れたのは、街には出ないはずの魔獣〈影狼〉。赤牙がPaneで出現率を操作したのだ。
「……出やがった」
「街の中で魔獣が!?」
プレイヤーたちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
剣姫が大剣を構え、振り返った。
「蓮! 行くわよ!」
「……ああ!」
◇
〈影狼〉が牙を剥いて突進してくる。
僕はとっさにPaneを操作した。
Vector Correction:1.25 → 1.35
Aggro Weight:1.2 → 0.7
攻撃の軌道をずらし、狙いを剣姫へと移す。
彼女が大剣で受け止め、炎の魔導士が一気に焼き払った。
影狼は断末魔を上げ、赤い粒子となって消えた。
歓声が広場に広がる。
「やった! 倒した!」
「補助士が……本当に戦ったぞ!」
Paneが淡く点滅し、数値が上昇していく。
Favorability(街全体):+0.0 → +0.4
……街全体からの信頼すら、裏仕様に反映されるのか。
◇
継承者は口元を歪めた。
「面白い。凡人にしては悪くない。だが次はもっと大きな舞台で決着をつけよう」
赤牙のギルドメンバーが一斉に霧の中へ消え去る。
残された広場に、剣姫の声が響いた。
「聞いて、みんな! 〈赤牙〉は街を脅かす。だからこそ、私たち《白百合騎士団》は戦う! ――一緒に抗ってくれる仲間を募る!」
広場から拍手が沸き起こった。
その中で、僕のPaneが強く脈打つ。
〈System Whisper〉:街全体が“未来の分岐”を注視しています。
凡人として静かに暮らす道は、もう閉ざされた。
僕は――裏仕様を抱え、戦う側に立つ。
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