第8話 影の継承者再び
戦場は赤と白の光で覆われていた。
広場を中心に炎の魔導士が詠唱を重ね、弓手の矢が空を裂く。
赤牙ギルドの戦士たちは咆哮をあげ、NPCの衛兵まで巻き込んだ乱戦に発展していた。
僕はPaneを開き、数値を操作する。
Vector Correction:1.50 → 1.65
Aggro Weight:0.7 → 0.5
敵の攻撃軌道がずれ、仲間の剣が鮮やかに命中する。
凡人のはずの僕の行動一つで、戦況が確かに傾いていた。
◇
「やっぱり……いたな」
低い声が背後から響いた。
振り返った瞬間、赤い霧をまとった青年が立っていた。
銀の短剣を握る〈赤牙の継承者〉――昨日の敵。
「凡人上がりの裏仕様使い。街の英雄扱いされて気分はどうだ?」
Paneが強烈に点滅する。
〈System Whisper〉:裏仕様干渉者を検出。互換性:98%
胸が軋む。
同じ力を持つ存在が、真っ向から僕を狙ってきている。
「ここで決着をつけようぜ。凡人か、継承者か」
彼の言葉と同時に、空気が凍り付いた。
赤いPaneの数値が跳ね上がるのが見える。
Attack Power:150 → 300
Speed:120 → 250
圧倒的な加速。
僕の視界を、刃が切り裂いた。
◇
「蓮!」
剣姫が駆け寄り、大剣で短剣を受け止める。火花が散り、周囲の戦闘が一瞬止まった。
だが継承者は嗤う。
「邪魔だな、白百合の姫。だが心配するな。お前の仲間は凡人には過ぎた力だ。……俺が証明してやる」
再び突進してくる短剣。
僕は必死にPaneを操作した。
Luck:3.61 → 3.91
Vector Correction:1.65 → 1.80
刃の軌道がわずかに逸れ、頬を掠めて空を切る。
その一瞬の隙を突き、僕は支援スキルを重ねた。
「〈ブースト・エッジ〉!」
剣姫の大剣に青白い光が宿り、継承者の短剣を押し返す。
広場がどよめき、仲間の歓声が上がった。
◇
だが継承者の目は、冷たく光っていた。
「なるほど。凡人でも、ここまでやれるのか。だが――まだ甘い」
Paneの奥で、彼の新しい項目が展開される。
〈Corruption Bias(汚染傾斜)〉:+1.0
次の瞬間、広場の床が黒い霧に覆われた。
NPCの衛兵が一斉に暴走し、味方すら敵に変わっていく。
「……っ!?」
「なんだ、衛兵が……!」
街全体の秩序が、赤牙の継承者のPaneに汚染されている。
僕のPaneにも、真っ赤な警告が走った。
〈System Whisper〉:未来分岐に汚染が侵入しています。対応しなければ街は赤牙に飲まれます。
胸が強く鳴る。
凡人だった僕が、ここで動かなければ――街そのものが終わる。
◇
「蓮!」
剣姫が振り返り、叫ぶ。
「あなたのPaneで、未来を上書きして!」
Paneが震える。
新しく浮かび上がった項目。
〈Future Bias(未来傾斜)〉
現在値:+0.2
――未来を操作する。
そんな力を、僕はまだ使ったことがなかった。
深呼吸し、指先をPaneに添える。
凡人の終わりはもう過ぎた。
ここからは――運命を変える者として。
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