第五章 ハッピー・サマーセイル
第34話 初夏の風
タカヤナギ(テツ)と僕(ソウジ)の二人暮らしが始まった。先取りすぎる初夏の日々、夜な夜なペンキを塗るタカヤナギさんの鍛えられた腕の半袖からのぞくさまにそそられる日々を送っているのが、もう懐かしい。
暖冬やと思ってたのに急に底冷え、それが気づくと暖かい風、三寒四温とはよく言ったもの。
僕らにとっては、悲しい花粉症の季節。嵐のように過ごしてきました。
リモートワークが会社に導入された。真っ先に取り入れるはずの僕ら限りなくフリーに近いメンツは、混乱してるときは、そら稼ぎ時やいうて、馬車馬のごとく走らされていました。
いやまだ現在進行形。
さらに、タカヤナギさんの、もと奥さんの息子たちとの時間が増えている。
諸々の感染症の流行る冬に閉園や休校となり、預け先にあぶれた息子たちとたっぷり遊び倒し、背中に乗せたり鬼ごっこをしたり。
はたまた道路を突っ走るのを追いかけ、それはもう、いつも使わない筋肉を駆使して疲労困憊でした。
これも、今まだ進行中。
いつまで続くかわからないような、子育て期間、目に見えて子どもたちはできることが増えているけども、僕にとっても新しく経験していくことが増え、大混乱。
今日も今日とて筋肉痛で会社に行きたくないでござる、とタカヤナギさんにラインしてしまいましたとさ。
まぁ、そんなん認めへんし、今日のお前の仕事はお前にしかでけへんからな、の一言ですっ飛んできましたけどね。花粉も飛んでるからマスクして自転車を飛ばして。
ほら、僕ほんとは仕事大好きやからな。
今日から数日、タカヤナギさんが出張やから、今日は鴉と二人で晩飯。自宅でな。
ペペロンチーノとアサリたっぷりチャーハンにバジルと生ハム、ルッコラとチーズにプチトマトのサラダ。
ドレッシングは自家製でオリーブオイルと粒マスタード、おろしにんにく、お酢と塩こしょうを混ぜて、さっとまわしかけて、出来上がり。
それにこんがり焼けた醤油だれに漬け込んだチキンとバジルのピザ、ワインも少々。
相変わらずの手際よく出来上がってくる絶品料理に舌鼓をうって、ワインでまったりしているところ。
なんだ。この贅沢な晩御飯は。
今までのコンビニ飯との雲泥の差が、あっけなく僕を健康な身体に仕立て上げる。
身体が軽い。思考がクリアになる。そういえばバスの中での泥酔も減ってきた。
そして、そこに子どものためのハンバーグや、唐揚げも鴉は作る。栄養バランスを考えた炊き込みご飯や野菜炒めなんていうのも入ってくる。
鴉の料理の力で、こんなふうに身体が安定しているのを考えると、家の中で料理を作って、部屋が片づいていて。もしかして、専業主婦って最強の魔法使いちゃう?
そして帰宅すると夕食があり、風呂が沸いている、この生活の安心感。
実は内緒で自宅に帰宅したんだけど、タカヤナギさんにはバレバレで先刻小言を貰ったとこなわけで、もうええわ、とにかく家で大人しくしてろと釘を刺されたのだった。
だからといって眼の前に美味いもんがあるのに、断れませんよねぇ、フツー。
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