第12話 「夜の錦」の真実
正月の映像を観ている。
煌びやかな男の娘カフェ、『NEW DIVE!!!』の入口から始まっている。
そこには、山本ソウジ、癖っ毛のゆるく巻いた髪が目のうえまで落ちてきているのを、マッシュふうにした、細身の男が、自撮りをしながら入っていく。
その店を、俺が指定した。
ゆったりと話しながら、歩いて降りる足元を、するりと猫が並走した。ソウジの足には当てないよう尻尾を離し、さっと降りていき、開いた扉の中へ先に飛び込んでいった。
これが、扉が開いた一瞬、ちらりとこちらを見上げやがった。
そんな奴が猫の筈がない。それは、マロ眉のついた白い子猫で、背中にも黒毛が散っている。とぼけて人様の店に堂々と入っていった。
思えば午前中から、ちょろちょろとソウジの近くを歩いていた猫だ。子猫だからと、ソウジには可愛がられ、煮干しをよくもらっている。
午前の神社への納品時、ソウジにまとわりついてきた十匹のうちの、白猫だった。
神社で販売するお守りのキーホルダーと看板を持参する際に、キーホルダーの中身に気づいたのだろう、猫たちはまたたびをやったときのように、フラフラとついてきた。それらは、ソウジのエネルギー、俺の魂入れされたアイテムだった。ソウジが会社に来てから、やたらと猫がついてくると思っていたのだが、いつから、こんなふうにこの猫はソウジをストーカーしているのか。見定めてやるつもりでいたのだが。
神社で引いた御神籤がこんなふうだ、と『夜の錦』というのに嘆いていたが、ソウジの周りにはまるで、錦にまといつくように怪しげなものが寄ってくる。猫は、魔除けがわりといったところか。
『夜の錦』。
ソウジはあれを『無駄だ』と嘆いていたが、阿呆か。違う。
『夜の錦』とは、この世の裏側、物怪や精霊が
そんなことも知らぬ様子で、ソウジは楽しげに店内の様子を説明していた。
猫は、ソウジの周りにいつもいる子猫らしい。席に着くと、そのテーブル下に丸く収まった。照明はテーブルと小さな舞台しか照らさない。堂々と店を堪能できるということか。
着物姿のキャストが立ち働く先に、怪しい黒服を見つけた。
腕を組んで、静かにカウンター近くに佇み、グラスを持っているが、真っ黒な服に、黒髪、細いが俺と変わらない高身長で、空間が歪んでいる。
時間を超えてきた者だった。こいつは、ソウジが会社に入ってくる前に、身分証を一式作ったことがある。視線が飛んできて、小さく頷くのが見えた。
(こんなところに、潜り込んでやがったか)
ソウジには会わせたくない輩だ、と思うも、今の近さでいつまでもは見守っていられない。俺が近づくと、ソウジに余計なもんまで背負わせちまう。離れて見張ることにした。
子猫もだ。居眠りを始めたと思うと、たちまち霊体は店内を満たし、その猫の中に俺たちがいる状態になった。
これが悪いモノではないというのを考えると、ソウジの守護獣かもしれない。悪さをしないのなら構わない。
キビキビと働くキャスト、ゆったり優雅に滑るように歩く女性に見間違うキャスト、彼らは全員男だが、ふたりほど、違う物が憑いていた。こういう店にはよくあることだが、生き霊、物怪、精霊、そう言ったモノたちが出入りしている。必ずそこには水があるからだ。カウンターの奥の水場にも、客にもキャストにも満遍なく霊は取り憑いているものだ。現代は意識と体の間に魔が入り込みやすい時代だ。明るくなった分、影も強くなる。見えなくなった物たちは、勢力を増す。
とはいえ、彼らもまた、俺の客だ。この世に根ざすための身分証を発行し、時には仕事を斡旋もする。彼らの働きがそのまま、この世に居られるかどうかの居場所になるのだ。
良い陰陽師の元に行けば、良い物怪はいくらでも見ることができる。式神として。もっとも彼らは、こんな店には、入ってこない。ここには、俺の結界が貼ってあるからだ。それぞれの仕える者の元で、粛々と働いている。
そして、俺とソウジの席についたキャストにも、大きな気配もつモノが取り憑いていた。
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