第11話 誘惑の着付け
先にメイクを済ませた二人は、着付けもヘアメイクも終えていた。
華やかな女の子二人。
チープな花魁風なんていうものではなく、ほんまもんの着物姿です。(わあ、化けたなぁ!やっぱり良い着物は風格が違う。)
モダンで粋な着物を身に纏って、ナチュラルメイク。楚々とした動きも様になっている君たちは、もはや女子そのものです。(素晴らしい~!)
***
僕がジーンズにパーカーのまま、タカヤナギさんのいるリビングへ移動すると、
「おお、ええやん、似合ってる。よっしゃ着付けやるで」と手招きされた。
「パーカーの下、裸やろな?」
「もちろん」
はじめにリノに言われて、化粧のまえにシャツまで脱いでおいた。裸の上からパーカーだけを羽織った状態だった。
黒いボクサーパンツ一枚で腰まわりにタオルを詰め込まれながら、肌着(裾よけと肌襦袢)をつける。
「オマエの腰、ほんまほっそいなぁ」と言われつつ。(はあ、そうですねぇ。甘いもんばっか食うてるくせに、あんまり肉つかんのですよ、僕。)
「けどタカやんセンパイの腰、ええ感じに肉ついてますやん。歳ですかね?」
「は? 筋肉やけど、俺のは。何かあった時のために鍛えとんねん」
「何か言うてなんやねんな、うっ、タカやんセンパイちょい、苦しーっ」
息が詰まって苦しいのを我慢せぇと宥められ、胸の膨らみを作るために、ガーゼやタオルがぎゅうぎゅうと押し込まれる。
鮮やかな赤の長襦袢を着せられ、半襟を整えられる。腰紐を結んで、それから、本命の着物。
着物を肩に乗せる。着物って重いんだよ。
だらっと背中に重さがかかってきて、よろけた腰をタカヤナギさんが、ぐっと手のひらで止めて、「大丈夫か」と声をかけてきた。
「大丈夫ですぅ」
すかさず先ほど伝授されたばかりの女声とゆったり流し目、柔らかい笑顔を返してやると、タカヤナギさんは一瞬ハッとしたようにこちらを見返した後、眉を顰めてしかめっ面になった。
(なんだよオイ。無視すんなよ。いつものニヤニヤとか、嫌味のひとつやふたつが戻ってくると思ってたのに。その無反応、僕が寂しいやんか……)
***
思ったより力技と思われる着付けが、タカヤナギさんの大きな手であっという間に進んで、背中をひと撫でされて出来上がった。
最後に「くるっとまわってみ」と回ると、ソファで寛いでグラスを持ったミニーとタミヤ、それにリノが「おおー」と野太い歓声をあげてくれて、現実に引き戻される。
ここには華やかな恰好をしているけれど、残念ながら男しか居ないんだよ。こんなにみんな華やかなのに、と、しみじみ思う。
「じゃ、あとは、帯なでしこ結びにしたるから」
手際良く腰にくるくると巻きつけて、僕の背後でいくつか折り畳んだ帯の端を結ぶと、リボン結びのような形になった。コッテリと刺繍の入ったそれは、擦れてしゃりしゃりと音をたてた。
鏡を覗き込むと、五枚ある羽部分の一枚だけ裏地が出ていて、可愛らしく見える。
残ったリノの着物も手早く着付け、帯は振り袖やから、と花結びにした。折り畳まれた帯の刺繍がきらきら光り美しい。
「タカやんセンパイ、もしかして皆んな帯の結び方違うん?」
「おー。ようわかったな」
「ミニーのはしだれ桜結び、タミヤのは肩や腰回りがしっかりしているからな、ほっそり見えるように片蝶結びや」
結び方で細く見えるとは、奥が深い。
さて、それぞれ足袋を履いてポーチに下駄も揃え、颯爽と街へ繰り出した。さほど寒くないので軽装でも出かけられるのがありがたい。
タカヤナギさんは引率の先生よろしく歩き方に指示を出し、どこから見ても、華やかな女の子たちやわ、と身体を仰け反らせ、薄目で見ながら満足げに、ぐふふと笑った。
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