08 ゴースト
キーラとティミーが居ない、とアリエッタが気付いたのは、真っ白な洗濯ものを竿に干し、シーツをお日様に当てた後のことだった。仕事も一段落してキーラの部屋に行ってみたが、お嬢様の姿はなく。ティミーの部屋に行っても、お客人揃って見当たらず。菓子の籠がなかったことに気が付いたアリエッタは、キーラとティミーがたった二人で邸から出掛けたことに思い当たった。
「ああ、もう! 油断していたら!」
まさか子どもたちだけで出掛けることはないだろう、と思っていた。キーラがアリエッタをごっこ遊びに加えていたので、たかをくくっていた。まさか出し抜かれてしまうなんて。
非常に困る。アリエッタは、旦那様から子どもたちの監督役を任されているのだ。
アリエッタはただちに街へと出た。
行き先は知らない。だが、キーラが大人に内緒でこっそり出掛けたというのなら、心当たりはある。大人に「駄目だ」と言われる場所。でも、ティミーを連れて行っているから、そこまで危険ではない場所。
――街外れの、無人のお屋敷。
前にキーラが興味を持っていたことを、アリエッタはしっかり覚えている。
昼日中にあっても静かな高級住宅街を、足早に抜ける。通り過ぎる邸宅は、大なり小なりハロウィンの飾り付けがされていた。オレンジや紫、黒のガーランド。カボチャや箒の置物。門の上の犬の像が帽子を被っていたり、ポストにお化けのシールが貼られていたり。
この街は、祭りに対して全力だ。特に子どもたちにとっては、楽しい街だ。
はじめは引き籠もりがちだったティミーも、この祭りの空気に浮かされるようになってきた。
――だからといって、お嬢様が内緒で連れ出すのを、容認するわけには行かないけれど。
はしゃいで調子に乗る気持ちは分からなくもない。
整った家並みも徐々に寂れていき、いつの間にか辺りは薄暗くなってきた。背の高い木々が立ち並ぶ。森の入口に差し掛かってきたのだ。
件の屋敷は、その中に建っていた。灰色の石で築かれた、ゴシック調の建築物。傾斜のきつい三角屋根の三階建てに挟まれて、中央に円塔が聳え立つ。長い事無人とあって、周囲は背の高い雑草に囲まれて、壁は風化で痛んだ様子が見られ。ティミーはルベット邸を『お化け屋敷』などと呼んだが、こちらのほうがずっと〝お化け屋敷〟だ。
背の高い窓の向こうが、白く揺れる。カーテン、だと思う。まさか
アリエッタは唾を飲み込み、無人の屋敷の敷地内に踏み込んだ。ここが幽霊屋敷であれ、なんであれ。不法侵入だとしても。子どもたちを見つけなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます