07 フランケン

「フランケンシュタインって知ってる?」


 週末を迎えたキーラは、アリエッタの目を盗んでティミーの部屋を訪れた。朝食を食べ終わり、家人たちがゆっくりできる時間帯。一方で、使用人たちは、今一番忙しい時間帯。


「えっと……人造人間を作ったっていう博士だっけ? 

怪奇小説の」

「そう。フランケンシュタイン博士。有名よね。じゃあ、そのフランケンシュタイン博士みたいに人造人間を造ろうとした人が、この街にもいたって言ったら?」


 ティミーは息を呑み、目を瞠って固まった。しばらくして震えだし、おずおずとキーラを上目遣いで見つめる。


「……本当?」

「さて、どうかしら。私は噂を聞いただけで、本当のことは知らないの。だから、確かめてみない?」

「確かめるって……」

「この街の外れに、古いお屋敷があるの。今は誰も住んでいない。その理由は、誰も知らない」


 それからキーラは、周囲をきょろきょろと見回した。ティミーの部屋の中には、キーラたちの他には誰もいない。メーガンも今は、階下で雑事をこなしている。

 よし、と頷いて、キーラは声を潜めて囁いた。


「でもね。その人造人間を造り出そうとした人が、研究に失敗して逃げ出したから、なんて話があるの」


 ティミーは恐れ慄いた。胸のあたりのシャツを掴んで、表情を引き攣らせ。今もしキーラが大声を出したら、彼は悲鳴を上げるだろう。

 でも、その瞳に好奇心が宿っていることを、キーラは見逃さなかった。


「来たるハロウィンに備えて、我が家は招待するお客様を選ぶ必要があるわ。もし、その人造人間がいたのなら……相応しいお客様だと思わない?」


 ティミーはしばらく俯いて、何も答えなかった。彼の小さい身体の中で葛藤が渦巻いているのに、キーラは気づいていた。


「僕……」


 キーラが与えた月とコウモリのお守りが、ティミーによって角度を変えられて、チカチカと光っている。


「……行く」

「そうこなくっちゃ!」


 キーラは興奮して立ち上がった。それからくるりと身体を回転させて、踊るようにティミーの部屋の机に近寄った。そこには、キーラの部屋から持ってきた、お菓子入りの籠が置いてある。ラタンで編まれた取手を掴み、ティミーを振り返る。


「じゃあ、早速行きましょう。お節介な妖精さんたちが、私たちを捕まえに来る前に」

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