09 クモとクモの巣
その無人屋敷の中は、埃っぽかった。石の床に降り積もって、足元は滑りやすい。キーラは慎重に屋敷の中を探索する。ティミーが左腕に絡みついていて、これまた動きづらい。
「ここ……本当に、誰か居るの?」
ティミーの質問に、キーラは答えなかった。居るはずがないと思っていた。というか、居たら困る。怒られる。無人だと確信しているからこそ、キーラはここを探検場所として選んだのだ。
大きな窓が取り入れる白い光を頼りに暗い屋敷を進んでいくと、大階段に差し掛かる。さすがに危ないと思ったのか、そこは絨毯が敷かれていた。他と同じで埃被っていたけれど――
「……あら?」
その絨毯を観察して、キーラは気が付いた。
「足跡がある」
「えっ」
ティミーがキーラの影から顔を出した。
ほとんど白く染まった絨毯の上に、ポツポツと赤い靴跡が付いていた。元の生地の色だろう。それは、階段の上に続いていた何度も通ったという感じではないが、確かに誰かが屋敷内を歩いた跡だ。
「……まさか、本当に人造人間が?」
「……………………まさかぁ」
あれは、ティミーがこの街のことをよく知らないのに付け込んだ、キーラの作り話だ。そんなことがあるわけがない。
あるわけはない、が。
明確な靴跡は、二人に恐怖と、それを上回る興奮を抱かせた。間違いなくこれは、冒険の予感だ。
キーラは階段へと足を向けた。ティミーは何も言わなかった。二人は自然足音を忍ばせた。絨毯が靴音を吸い込んでいく。
屋敷の中は静かで、冷たくて。日頃キーラたちがいる世界とはまるで違っていた。背筋が冷たくなるような恐ろしさを覚える中で、しかし二人は誘われるように、屋敷の二階へと上がっていった。壊れた置物が、二人を出迎える。顔の欠けた石膏像と顔を突き合わせ、心臓が止まる思いをする。それでも二人は引き返さなかった。まるでクモの糸に絡め取られているかのように。
階上で子どもたちを待ち構えているのは、顎を拡げた大きなクモか。それとも――
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