02 魔女の帽子
だが、キーラの気合いに恐れをなしたのか、ティミーはキーラを避けていた。いや、キーラだけではなかった。伯父である旦那様も、奥様も、アリエッタたち使用人でさえ避けていた。彼がやってきた一昨日も、一日経過した昨日も、ご飯のときだけ顔を出して、だんまりのまま食事をかきこみ、あとは客室に引きこもり。
「そういえば、あの子は誰も連れてこなかったわね」
家族であれ、使用人であれ。誰一人あの子の知り合いはいない。互いの存在を記憶していないほど疎遠だった伯父も従姉も、ティミーにとっては〝見知らぬ人〟でしかない。
見知らぬ場所で、独りぼっち。それがティムエル・ルベットの現在の境遇。
もう少し早く気付くべきだったかもしれない。
「……もったいないわね」
自室のベッドに座ってアリエッタの反省を聞いていたキーラは、むすっとした様子で窓の外に目を向ける。そこには、ルベット邸の庭が広がるばかりだが――
キーラは勢い良く立ち上がると、お付きのアリエッタに何も相談することなく、クローゼットを勢いよく開けた。ずかずかと中に入り込み、荒らし始める。たくさんの帽子の箱を、引っ張り出しては開けて。
「……お嬢様?」
「あったあった。これよこれ」
見つけたのは、大きな鍔の三角帽子。真っ黒の生地に紫のリボンを巻いたそれを被り、キーラは姿見の前で満足そうに笑った。
「街はもうすぐハロウィンで、面白いものがいっぱいあるの。楽しまなくちゃ、もったいないわ」
仮装用の魔女の帽子を被ったまま、その場でくるくると回る。いつものお気に入りの黄色いドレスが翻る。
「だけど、あのうじうじくんがあのままじゃ、せっかくのハロウィンが楽しめないわ。だから私、魔女になることにしたの」
『だから』の前後の結びつきが分からず、アリエッタは首を傾げた。だけど、キーラの中では納得できる方程式が出来上がっているらしい。何やら〝計画〟を立てることに夢中になっている。
「さあさあ、私の
まずは黒いドレスを出しなさい、と未完成な魔女様はブラウニーに命令した。
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