03 パンプキン

 アリエッタは、慌てて旦那様に報告に行った。キーラお嬢様を止められるのは、この人しかいない、と思って。


「良いんじゃないか。キーラに任せよう」


 だけど、ルベット家のご当主ライナスは、朗らかに笑った。


「大丈夫。あの子はたちの悪い悪さはしないから」


 それに君がいるしね、と言われて、アリエッタは慄いた。つまりキーラは止めないが、アリエッタの監督責任はしっかり問うというわけだ。面倒事を丸投げにされた。あまりにひどくはないだろうか。


 今日からのおよそ一ヶ月の間の苦労を思い、アリエッタが執事に特別手当の相談をしようか迷っている間。キーラは早くもティミーの部屋に突撃したらしい。黒のワンピースに着替えて魔女らしい装いになったお嬢様は、抵抗せずうなだれたままのティミーの腕を引っ張って、庭

外に出ようとしていた。後ろでティミー付きとなったメイド仲間のメーガンがオロオロしている。

 早速アリエッタの監督が必要なようだった。


「お嬢様」


 事前に何の相談もなくお客人を外に連れ出そうとしたことを注意する。


「ちょっとそこまで。前庭に出るだけよ。さすがに私も、怯える仔猫ちゃんをいきなり街中に連れて行くことはしないわ」


 どうやらキーラの中では、この従弟を仔猫扱いすることが決まっているらしい。アリエッタはティミーの顔を窺うが、俯いて暗い顔をしている彼の心情は推し量れない。

 ――大丈夫だろうか。お嬢様のごっこ遊びに振り回されていないだろうか。


「今日、飾り用のパンプキンが届く日でしょう? それを見せてあげるのよ!」


 なんだかお節介とか余計なお世話とか思わなくはないが、まだ遊び盛りのティミーが部屋に引き籠もってばかりなのも良くはないだろう。無茶をしなければ良いか、とアリエッタは何も言うことはせず、キーラとティミーの後をついていくことにした。


 さて、ハロウィンといえばカボチャである。昔はカブだったらしいが、街ではカボチャが主流なので、ルベット家もそれに倣っていた。

 ただし――


「おや、お嬢様。早速来ましたか」


 玄関を出て、ちょっとしたロータリーを通り抜け。敷地の入口となる格子門と邸の、ちょうど真ん中くらいの位置になるだろうか。灰色の作業服を着て分厚い軍手をつけた初老の男性が、キーラたち御一行を出迎えた。


「まだ運んだばかりで、加工していませんよ?」

「構わないわ。そりゃお顔があったほうが良いけれど、カボチャだけでも見応えがあるもの」


 さて。ティミーがどう感じているか。後ろにいるアリエッタには、窺うことはできなかった。だが、なんとなく驚いていることは、頭の動きから察することができた。

 キーラに促され、しぶしぶ顔を上げたティミーの頭は、カボチャのほうを向いて固定されている。さもありなん。ルベット家が毎年このお祭りで用意するカボチャは、前に立つ庭師クルスのような標準的な身長の男性の、脚の長さほどの直径を有しているので。


「どう? すごいでしょう! 我が家は毎年、このくらいの大きなパンプキンを用意するの」


 それをクルスが器用に加工して、まさにお化けと言いたくなるようなジャック・オー・ランタンが、祭りが終わるまでずっとルベット家の庭に滞在するのだ。

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