Spooky, Spicy, Dreamy
森陰五十鈴
01 黒猫
「今日から一ヶ月、この子と一緒に暮らすんだよ」
それは予め旦那様から聞かされていたので、従弟の少年を紹介されても、キーラお嬢様は特に驚かれなかった。だけど、物珍しくはあるらしい。大きな目を瞬かせて。両手を腰の後ろに回し、前屈みになって。じろじろとその従弟を観察していた。
アリエッタが心配したように、少年は怯えてしまった。キーラから身を隠すように、旦那様の後ろに隠れてしまう。黒くて長くて癖っ毛の前髪に隠れた顔には、警戒の色が浮かんでいた。
ハチミツのような黄色の目が、じっとキーラの動向を窺っている。
人見知りかな、とアリエッタは予想した。九歳といえば、好奇心旺盛で活発な年頃だろうに。キーラのほうが上とはいえ、その差はたった三つ。気後れするほどではあるまいに、遊んでくれそうな相手にこの反応。繊細な子なのかもしれない。
果たして、彼はキーラと一ヶ月うまくやっていけるだろうか。アリエッタは心配になった。キーラお嬢様は、決して悪い子ではないが、少々人を振り回すところがお有りなので。
ふーん、と唸って、キーラは身を起こした。いつもより偉そうな感じで胸を張っているのが、アリエッタは気になった。
「なんか、猫みたいね」
白いシャツと、タータンチェックの茶色のズボンと。きちんと身なりは整えられていたけれど、少年の背は丸まっていた。それがまた気の弱さを感じさせるのだが――キーラには、怯えた猫のように見えたらしい。
そう言われると、アリエッタにもそんな風に見えてくる。物陰に隠れて怯えながらも、こちらの様子を窺って毛を逆立てている黒い仔猫。明るい色の目が光って見えるのが、その印象を強めている。
どうやらアリエッタも、すっかり感性がお嬢様に影響を受けているようだ。これもお嬢様付きのメイドのさだめだろうか。
「ティミーって、言ったかしら」
従弟とはいえ、これまで交流のなかった間柄。キーラは相手の名前を確認するが、ティミーは頷くこともしなかった。手懐けるのは、なかなか容易ではなさそうだ。
それがまた、アリエッタのお嬢様の闘争心を煽る。
「今日から一ヶ月、よろしくね」
絶対に手懐けてみせるんだから、とお嬢様の目が語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます