外伝【平日の麻葉】

 足が折れたが、リハビリの成果により松葉杖をつきながら歩けるようにはなった。そこで問題になったのが【学校に行くかどうか】だった。


 学校へ行く以外にも、オンライン授業というものがあるらしいが、麻葉とってそれはピンと来ないモノで、学校へ行きたくないとも思ったのだが――


「それはそれ。これはこれ」


 何ともサバサバした母の言葉だろうか。


 結局オンライン授業か、転校か、今まで通りの通学をするかの3択を迫られた時、麻葉は【今まで通り通学する】道を選んだ。


(学校通わないって道は中々ないよなー)


 母親も麻葉のためできるだけ授業を受けて欲しいという一心でのことだ。流石に駄々はこねられない。


 こうして学校への道のり10分。足を折った麻葉にはまだ辛く、送り迎えを手の空いてる家族が担当してくれることになった。


 今日の送り迎えは母親だ。


「最近、ちょっと明るい顔になったわね」


「そうか?」


 何やら嬉しそうな母親の声は、麻葉も何故か嬉しかった。


(そういえば、母さんの声を聞くの。久しぶりな気がする)


 両親は共働きで、今は忙しい時期なので土曜日も日曜日も仕事でいない時が多くなった。


 そうなると、必然的に会うことが少なくなったとは言え、2人とも麻葉が起きてる時間に家には帰って来るのだ。


「私、余裕なかったんだな」


 それ以上に自分が駄目になっていたことに気付く麻葉。


「麻葉は立ち止まると、急に泣き虫になるものね」


「ハァ!?なんの話だよ!」


「幼稚園の時かけっこで転んだ時とか――」


「そんなちっさい時のことは良いだろ!?」


 強がって見せたが、小さい頃から面倒見てくれている母親には勝てない。


「小さい時から一緒よ。きっかけがあったらちゃんと立ち上がろうって頑張る姿も」


「そんなに一緒か?」


「大きくなったけどね。だから入院した時、いつもよりずっと、暗い顔して落ち込んでたから……」


「もういいよその話は」


「そう?」


「ああ、大丈夫だよ。まだちゃんと歩けはしないけど、別の所で立ち上がったから」


「そっか……なら良かったわ。まだ時間あるわね。どう?コンビニで何か買う?」


「杏仁豆腐あるならそれで」


「わかった」


 そうして二人の会話は途切れた。


 短いやり取りだったが、久しぶりの母親とのやり取りに麻葉の口元はにやけてしまっていた。

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