異世界を駆ける

【ミーレス改】

「ダメです」


 【テラ・レギオンズ】にログインして、地下のミーレスの場所へ行くと、ミーレスの装甲と装備を外されていた。


「現在、全力でミーレスの改修を行っております。明日には完了予定ですので、それまでお待ちください」


「えー……。せっかくクエストを進めようとしたのに、出鼻をくじかれたな」


 これも自分が20万Gを渡した影響だろう。仕方ないとため息を付き、麻葉はログアウトし、その日は眠りについた。

 

 次の日、日曜日。朝一番に麻葉は【テラ・レギオンズ】にログインする。


「おはようアサ」


「おはよーフィー。早速だけどミーレス見に行こうぜ」


「そんなに乗りたいんだ」


「ジェットがミーレスを改修するっていうから見たいだけだよ」


「その後乗り回したいんじゃない?」


「……それは、まぁそうだな」


 どうもフィーには心を見透かされてしまう麻葉。


 そんな麻葉を、フィーは笑いながら肯定する。


「いいのよ別に。私だってミーレスのことは好きだし。アサには、ミーレスをもっとうまく使って欲しいって思ってるから」


「下手だったかそんなに?」


「まだまだ初心者よ。オーラの使い方はもっと覚えなくっちゃね」


(先生かよ……)


 だが、オーラについては麻葉もちょっと感覚を掴んだだけだ。もっと知りたい。


「分かった。よろしくフィー先生」


「先生はいらないわよ。友達じゃない」


「そう、だな……」


 麻葉はいつの間にか、フィーが隣にいても不快にならない程には心を許してしまっていた。


 このやり取りも全く不快感がなく、自然と受け入れてしまう。


「じゃあミーレスのところ行こうぜ!」


「ちょっと待ってよアサ!」


 そうして地下のミーレスの元へ向かうと、ミーレスの装備が様変わりしていた。


 手にもっていた剣の質感が変わっており、更に左手には何やらボックスのような装備が付いている。


「聖戦士様!!」「聖戦士アサ様!!」「来てくれたのですね!!」


「あ、ああ……」


 【聖戦士】という言葉にまだ慣れない麻葉は、つい引きつってしまう。


「聖戦士……?」


「アサ様は、この国の偉大なる戦士――聖戦士となられたのだ」


 昨日寝ていたフィーは聖戦士のことを知らず頭を傾けると、目に深いクマを付けたジェットはそう説明した。


「ふーん。変なの」


「それよりジェット。ミーレスが色々変わってるような気がするんだが」


 あまり聖戦士のことについて突っ込んで欲しくない麻葉は、話をミーレスに逸らす。


「気づいて頂けたのですね!では紹介いたしましょう!!

 まずは剣です。鉄素材からミスリル素材へと変更しました。オーラのノリがよくなるはずです」


 前は黒い鉄の剣であったが、今では銀の輝きを放つ剣に変わっている。


「良い輝きだな」


「そうね。凄く綺麗」


「国で取れた一番高純度のミスリルを回して頂きました。これもアサ様の名声あってのこと」


(名声……?)


 何の名声か不思議に思った麻葉だったが、ジェットの説明は麻葉のことを待ってくれない。


「左手には火炎放射器を装備いたしました。対歩兵用ですが、役に立ててください」


(兄貴だとヒャッハーとか言って使いそうだな……)


 光冴がいつかオススメした火炎放射を、巨大な敵に撃ちまくるゲームを思い出す麻葉。


(あの時の兄貴。テンション可笑しかったよな……)


『ヒャッハーー!!』


「な、なるほどな」


 あの時の光冴の様子を思い出し、つい笑ってしまう口を抑えつつ、ジェットの話を聞く。


「はい。コックピット周りも変えさせて頂きました」


 ジェットはコックピットを開き、内装を見せる。


「上にオーラの残量を表示する『オーラ・モニター』を設置させて頂きました。これで目視での確認ができるはずです」


「これで分かるのか、便利なもんだ」


「ちょっと待って。こんなモニターいらないわ」


「え?」


 さっきまで大人しく話を聞いていたフィーが、いきなり反論したことに麻葉とジェットは驚く。


「オーラ残量はミーレスの活動時間にも関係してくる。いらないとはどういうことだ?」


「オーラの残量は、自分で確認して気を付けるのが基本よ。こんな装置に頼ってたら、オーラの確認を自分でしなくなっちゃうじゃない」


「だが、見れるなら見れた方が良いのではないか?」


「自分で確認するのなんて一瞬よ。これで確認するまでもないわ」


「ふむ……アサ様はどっちが良いでしょうか?」


「うぇ?」


 教師と親の育成方針の違いによる衝突を見ている気分になっていた麻葉は、いきなりの質問にどう答えるか迷う。


「……まだ私はオーラについて慣れてない。最初のうちはこれを付けて、慣れたら外すって形じゃダメか?」


「分かったわ。だけど、あんまりこのモニターに頼らない方がいいわよアサ」


「ああ、分かってる」


 あくまでフィーは、麻葉のためを思って言っていることだ。


 何か深い意味があるのだろうと、麻葉はその言葉を心の中に記憶した。


「では、一旦このままということで。次ですが『試作型オーラ・アンプ』を取り付けました」


「なんだそれ?」


「操縦者のオーラに共振し、オーラを増幅してくれる装置でございます。試作型なので、効果はあまり感じられないかもしれませんが」


「そりゃ凄いな」


 スキルレベルでしか【オーラ・パワー】は上がらないと思っていたが、こうした装備でそれを補えるのであれば、これは便利なモノだ。


「はい。これにて一回目の回収は終わりとなります。現在のミーレスの機体名称を【ミーレス改】とさせて頂きます」


「【ミーレス改】か」


「はい。更なる改修もしたいのですが、それには幾つかの素材を集めていただくことになります」


 そうジェットが告げるとコンソールが開き、10個のクエストが表示される。


「ミーレスを更に強化したいと思うのでしたら、更なる協力をお願い致します」


「ああ、望むとこだぜ」


 強くなったミーレスに更なる強化があることに、心が躍り口元がにやける麻葉。


(もっと強くなろうぜ。私もお前も)


 誰にも負けないように、そうしていつか――


 ――【ゴジュモス】に勝てるように。

―――――――――――――――――――――――

テラ「ミーレスはいい機体だから頑張って強化するのだよー朝姫ちゃん。

何処まで強化できるかは、君次第なんだから」

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