第36話 赤の屋敷

 もう朝なのだろう。朝日が目を起こして、ゆっくりと身体を起こす。

 子供たちはまだ眠っていたので、起こさぬようベッドから下りると洗面台に行き、顔を洗う。

 備え付けのタオルで顔を拭くと、ふうとため息をついた。

 少し泣いたから、目が腫れぼったい。

 背中に気配がして、ばっと振り返るとセキエイがいて、胸を撫で下ろす。

「声、かけてよ」

「脅かそうと思ってな」

 セキエイの顔は洗ってある。つまり、入ってきた僕を驚かすためだけに隠れていたのだ。

「もう」

 タオルを持って出ようとしたらセキエイの手が進行方向に現れる。

「しないよ」

 そう告げると、

「アキラは、これだけでするつもりになったのか? 相変わらず、いやらしい」

 かぁと身体が熱くなって「ばか」とセキエイの腕を叩いて、ベッドに戻ろうとすれば、それは固く、くぐってやるとしても、ぐいと壁を背に押しやられ、

「んっ」

 口を開けと言わんばかりのセキエイの舌が口の中に入ってくる。

「まって、こ、こども、うんっ」

 腰を抱かれ、キスが止まらない。

 下半身に熱があつまりはじめて、これはいけないとセキエイの肩を叩くが、止める気がないようで口内を蹂躙される。

「んーっ、はか、だめ、らって」

「俺から見れば子供たちの様子も分かる」

 そう言われてズボンを軽く脱がされてしまう。勃ちあがった、それをセキエイが扱きはじめて、焦って手を止めようと下にやると、今度はセキエイが腰を押しつけてきて、自身を出す。

「ばか、ばか、ばかっ」

 二つが重なり、そのうち鈴口から液体が漏れて、スムーズになる。

「はっ、あっあっあっ」

 そういえば久しぶりだ。

「声を抑えろよ」

「ううぅ」

 早く終わらせないと、とセキエイの肩に顔を乗せて身体を重ねる。

「んん、んっ、ふっ、あっ、せきえいっ」

 昇ってきた快感に身体を震わせ「あっ」と漏らして欲望を解放した。

「はーっ、はーっ」

 足がガクガクする。セキエイも同じようで白い液体を手で遊びながら、

「これ以上はしない、な?」

 にやりと笑って、タオルで二つを拭くと水で洗い始めた。

 じっとりとした目線を送るがセキエイは、なんのそのと笑っている。

 子供たちを起こそうとベッドに向かうと、

 こんこん、と音がして「……?、どうぞ」と応える。

「お食事の準備ができました」

 あっ、そんな時間なのかと急いで子供たちを起こす。

「んあー?」

「ピーキー、もう」

 朝ー? やら、うーという声の中で、みんなが起き始め、

「ほらほら、ご飯だから顔を洗って、ほら」と急かす。

 扉を開けると優しそうな女性が立っていて「すみません」と謝る。

「大丈夫ですよ」と返され、この国の人は基本的に穏やかな人が多いのだろうと、なんとなく思ってしまう。

 全員、顔を拭き終わって部屋を出ると、

「待て!」

 そんな言葉を聞いて身体を震わす、フーギリアの声だ。

「セキエイ殿、アキラ殿、出立の準備をッ!」

 えっと、固まる。

「お荷物はこれですか、下に飛馬たちを待機させていますから、早く」

「でも、早すぎじゃ」

「マステール領の方が来たのです。早く裏口に!」

 確かにリンカは、今日の出立だと言っていたけれど、こんな朝早く? だが、フーギリアの様子を見ると、この襲撃は予定になかったのだ。

「どけ!」

 鎧に身を包んだ男が入ってきて、

「やあぁああ!」

「ピキ!」

 僕の足元にいたピキを持ち上げ、連れ去るように連れて行く。

 部屋を飛び出し、全員で追うと、男はホールについたところで、アルシュバッドにピキを放り投げる。

 そこには赤がいた。

 周りが白すぎて、その色だけが浮いている。

 赤のドレスに、烏羽のような黒髪。白の扇子を持った女性がホールの真ん中に立っていた。

「あら、ごきげんよう」

 口から飛び出したセリフに、はっとして逃げようと後ろを見ると、そこにも鎧の男たちがいて、完全に通路を塞がれている。

 子供たちをかばいながらいると、

「ここは良い場所ですね。白が綺麗だわ。セキエイ・キス・ミネラルさま、次いで罪人のアキラ、ここが赤くならぬうちに、ご一緒にマステールにいきませんこと?」

 僕たちの荷物を持ったフーギリアの顔が強張り、

「アリステア・ヴァン・マステール、さま」

「あら、わたくしの顔をご存知? なら、優先すべき事はおわかりね?」

 セキエイが前に出て、

「兵を下げてくれ。飛馬は馬車の後ろにハーネスをつければ俺のあとを追う」

「わかりましたわ」

 アリステアと呼ばれた女性は扇子を振ると、近くにいた兵士が外に向かう。

「お二人とも、寝間着のままで申し訳ないのですが、こちらも急ぎですの。そう急ぎでお二人を連れて帰りませんと、王都に向かう訳ではないのです。どうぞ、緊張なさらないで」

 ぐずるピキと抱いているアルシュバッドを強く抱きしめた。

 セキエイはフーギリアから荷物を受け取り、

「アキラ」と一言、僕は「またね」と呟いて、子供たちから離れてく。

「……ぜってー探し出すからな!」

 アルシュバッドの言葉に微笑んで、外に向かうアリステアの後に続いた。

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