第26話 道中家族
そんな姿に笑ったのがピキで、酔わなかったらしい。
お酒も酔わなそうだなと心に留めておく。
「そろそろか」
休憩所に着くと荷物を改めた。
街の人たちが用意してくれたものがあるのだ。見ておかないといけない。
一番、目立つ瓶には水が入っていた。
「重かったでしょ」とアムリタを撫でる。
それと着替えらしきものがあり、それは小さく「ああ」と口にした。
「五人ともおいでー」
初めての荷台に尻を痛めた三人と元気な一人、地図を見せてくれていた一人に声をかける。
「なんスか」
後輩口調になったアルシュバッドに服を渡す。
「え」
商人風の茶色の上着に赤のズボン。立派な靴にアルシュバッドは目を白黒させながら、こちらを見る。
「瓶に水をもらったから身体を拭いて、で、これはヴィムとクオン。こっちはミサーラだよ」
「ぴきのは!」
「あるよー」
上等な服の数々だった。今着ている所々破れているものではなく、立派な服に四人が泣きそうな顔をする。
こんな愛し方があるのだと。
「着替えなね」と言って固まる。ミサーラは女の子だ。ど、どうしようか、と口に出そうとしたら、ミサーラは、濡れた布と、どこかにあったろう桶を持ってすそそと藪の中に次には薄緑色のワンピースを着た子が出てくる。
そうだよね、ずっと男の子の中で暮らしてたんだもんね。
どの服も綺麗で、なにより靴がいい。これならイイトコロの子供に見える。
ピキの身体を拭いて着替えを手伝いながら、
「飲み水は、これでいいよね」
セキエイに聞くと、
「干し肉に燻製魚、果物まで入っている」
はあ、とため息をつきながら笑う。
「ソウロウまでは、どのくらいなの?」
はい、終わったーとピキを解放してセキエイに聞く。
「この人数だから四日はほしいな」
「僕たち二人だったら?」
「二日の予定だった。カンロたちを全速力で走らせるつもりだったからな」
この王子、無茶をするなあと肩をくっつけ合う。
子供たちは新しい服で、嬉しそうに踊っている。
「……設定をどうするかだな」
「設定?」
「俺たち二人が、五人の子供たちを連れているのは何故だ?」
急な問いかけに、ぱちくりと目を瞬かされながら、
「……ソウロウに連れて行く」
「そこで、ここにいいものがあった」
セキエイが街の人たちからもらった荷物の中に、大きめのサイズの青に腕は白の、みたことがある、農民が着るような服装だ。
ぱっと、セキエイが僕にあてがう。
「
「女装するって事じゃないからね!?」
確かに成人男性二人が荷台に子供を五人乗せている想像は怪しい。怪しいが、ここまですることか。
うう、と考えながら、
「それ、いいと思います!」
ミサーラがきらきらとした目で、こちらを見ていた。
「お母様って呼びますね!」
外堀が埋まってしまい、僕は藪の中で着ることになったのである。
「そんなに青! て感じじゃないね」
煤けた感じで、最高級と言わず、底辺とも言わず、商人夫妻と子供たちと言ったところか。
「喉を隠すのない?」
男らしく喉仏があるので布を探す。
「あった!」
いつのまにか荷台に乗っていたピキが取り出してくれる。短いマフラーというか、前から後ろで重ねて前に。軽く結んで喉は隠れた。
「あと、声スね」
アルシュバッドが言うと、
「ここは喋れない設定にするの!」
ミサーラが嬉しそうに提案し、そうしようとクオンがこくこく頷いて、ヴィムは、どこか遠くを見ていた。ヴィムが一番感情表現がなくて分からないな。
はぁ、とため息をつき、もう諦めた。
「おかーさん?」
「そうだよ、ピキ。これからアキラさんは私たちのお母さん!」
「おかーさん!」
ピキが嬉しそうに抱きついてきたので、抱き返す。
「いい感じだな」
御者に乗っていたセキエイが、にやにやと笑うものだから冷たい目を仕返す。
効いてないようだが。
「また休憩したいところまでは時間がかかるから、ここで少し腹を膨らませておくか」
そういって、足がはやい果物を取り出してナイフを出すと、アルシュバッドにも、ナイフを出して切るように促す。
ミサーラが皿を出して、切った部分を乗せていく。
すべてを旦那と長男と長女がやってくれる。
別けられたものからヴィムが皿を渡してく。一番最年少のピキの皿にはお母様の分も乗っているらしく、量が多い。
そして横からクオンが、荷物に入っていただろうフォークを渡してくれた。
この家族、できる!
「はい、おかーさん」
ピキが果物が刺さったフォークを向けてきたので、遠慮なく食べ、美味しいねぇと言っておく。
「ふっ」
セキエイが笑いを我慢するかのように後ろを向いた。
覚えてやがれ……そう思いつつ、今は甘んじてくれる。
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