第27話 道中家族2

 果物を食べてから、馬車に揺られて少し。

 街の人たちがくれた荷物の中に、クッションが入っていてお尻へのアタックはなくなり、アルシュバッド以外の子供たちは眠りの船をこぎ始めていた。

「寝ていいよ」

 その声にヴィムもクオンも我慢できなかったらしく、クッションを枕にして寝てしまう。

「ミサーラは平気?」

「ちょっと、眠いかも」

 寝ていいよ、と口にすれば、うとうとしながらミサーラも目を瞑り、眠りについてしまった。

「ピキ?」

 抱えていた最年少は柔らかいとは言いづらい腕の中で、すでに寝てしまっている。

「アキラ、寝てもいいぞ」


 セキエイの声が聞こえ、どうするか考える。

 今、寝てしまうと夜に響くだろう。

「大丈夫」

 そう言ったが、うつらうつらと周りに引っ張られてしまい、こくりと首が揺れる。

「……こっちは大丈夫だから」

「う、ん」

 睡魔に負けて、目を瞑った。

 ピキの温度が気持ちいい。起こさないよう大事に抱きしめながら荷台にいた全員が寝てしまう。

 それから少し、少しだと思う。はっと起きて周りを見た。

 陽は昼過ぎだろうか「ごめん」と御者の二人に謝るが、アルシュバッドは眠りの船を漕いでおり、起きているのはセキエイだけで、人差し指を口元に、しーっと静かにとジェスチャーする。

 そういえばと腕の中のピキは、まだまだ寝ており、起きる気配がしない。

 こんなに穏やかな眠りは、今までなかったのだろう。


 からからと音がする。

 穏やかな道中は、子供たちにとって知らないことであるが、その分、安心して寝れる道だ。こんなことがあると彼らは思っていただろうか。

 セキエイを一人にしないようピキを静かにクッションの上に置いて、セキエイに近づいて肩を寄せる。

「いいんだぞ、寝てて」

「もうお昼すぎでしょ。食べなくて大丈夫?」

 そう返すと、

「みんな寝てるからな」

「夜、寝れないかもよ」

 ふむ、とセキエイが考えたようで、しかし、と後ろを見やる。

 ぐっすりと寝ている子供たちを起こすのはしのびない。

「もう次の休憩所は近いし、その時まで寝かしておいてくれ」

 うん、とセキエイの額にキスをして夫夫ふうふらしいをことをしておく。


 カンロとアムリタの視線に気づいて笑うと、二頭も頭を擦り付け合って愛情表現をしている。

「やっぱり、二頭は番いなんだね」

「ああ、幼い頃から一緒で、番いになるのは当たり前みたいなものだ」

 ヴェスタに着くまで、縦一列に並んでいた二頭。本当は隣同士がいいだろうが、主人であるセキエイの気持ちを汲んで走り続けてくれた。

「そういえば教えていなかったな。カンロもアムリタも魔術が使えるぞ」

「え」

 初めての……というか城を出てから、この世界のことを知らないので、こうやって驚くのは何回目か、

「飛馬は使える種と使えない種がいるが、二頭とも魔術が使える。簡単だが風を起こして相手を吹き飛ばす魔術だ」

「僕はお荷物確定かあ」

 別に魔術が使えるようになるかは別として、なにかしら役に立っているのではないかと心の底で思っていた。

「アキラはお荷物じゃないぞ、俺の妻だ」

「うぐっ」


 胸を押さえてセキエイを見る。

 そんなことを言われたら、恥ずかしくなってしまう。

「妻が荷物なわけがないだろう」

 セキエイの手が伸びて、僕の頬を撫でる。

 撫でなれながら「ん」とセキエイの手に唇を寄せ、甘くキスをすると撫でていた本人が目を見開いて、こちらを見た。

「やめてくれ、そんな顔をされたら……その」

 唇を寄せ合い、キスをしようとして、そんな時に思い出す。

「あ」

「あ?」

「僕も役に立てる!」

 そう言い、自分の荷物の中から携帯電話を取りだした。

「ふっふーん、そういえば、この世界で使えるか分からなかったけど、こういうのを持ってるんだよなー」

「忘れていたな」

 セキエイも忘れていたようで、目の前の板を見てから僕を見る。

「電波は……やっぱり、ダメか。ニーヘルと通話はできるのかな。試してなかったね。でも、凄いのは通話だけじゃないんだよ」


 ほう、とセキエイが瞬いて板を見た。

「なにかあるのか」

「ふっふーん、レシピが載ってる」

「れしぴ?」

 不思議そうに言葉を繰り返すセキエイは疑問を投げかける。

「色々なご飯の作り方。この世界、米があるんでしょ。そういうのを使ったり、果物を使ったり、その使い方を教えてくれる。一人暮らしだったから、いつか自炊したいなあって無駄にレシピの画像があるんだよね」

「料理の仕方が分かるということか?」

 うん、と頷く。

 こういう時のために使えるって最高に役に立ってる、と思い、携帯の画面を叩くと充電は九十%、充分だ。立ち上がると、

「次の休憩所に着いたら披露するからね!」

 と、胸を張る。

「こら、危ないぞ」 

 揺れて、おっとっと、とセキエイに掴まり、にこりと笑う。

 こんな役の立ち方があるなんて、気づきもしなかった。まあ、最初は飛馬たちで強行軍してた訳だから、携帯電話のことを、すっかり忘れてしまっていたのだが。


 セキエイに掴まって、にっこりと笑うと軽くキスをして嬉しさを共有しておく。

 驚いたセキエイが手綱を引いたのだが、カンロとアムリタはなにも知らなーいという顔をして暴れることはなかった

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