第15話 砂嵐は、まだ2―水遊び

「しない」

 はっきり言われて目を見開く。

「えっと」

 戸惑いが口から飛び出して、セキエイに差し出した手が宙を彷徨う。

「だが、手を出さないとは言わない」


 ぐいっと腰を掴まれて胸元に彼の唇が触れる。

「あっ、ちょっ」

 潰れている突起を、ざらりとした舌で舐められ「ん」と背が電流のように痺れる。

 舐められている反対側は親指でこねられて、体を捩り、逃げようとしたが、そうする度に、吸われて胸を突き出す形になってしまう。

「んっ、ふっ」

 セキエイの腕を掴みつつ、胸の突起が変わっていくのを感じ、熱くなる。

「ちょ、と、セキエイ」

「触れたかったんだ、アキラの好きな場所を」

「しないん、じゃ、なかった、の」

「これだけだ」


 ちゅくと吸われて、腰が仰け反る。確実に快感を拾い始めてしまい。ちかちかといやらしい自分が暴かれていく。

 息を乱し、頬に張り付く髪の毛が煩わしくも、どうにかセキエイを引き剥がそうと両手で止めようとするが、意味がない。

「あっ」

 つねりあげられ、噛まれ、腰がはじける。


 がくん、と身体が沈む。それをセキエイは受け止めてからアキラの肩を強く噛み、舐めた。

「ひどい」

「悪かった」

 謝罪の言葉に反省の色がなく、ため息をつくと身体の怠さの犯人を睨みつける。

「アキラが誘ったんだ」

「確かに誘ったけど」


「でも、色々と話さなきゃいけないことがあるだろう? 疲れ切ってしまったら意味がない。それに俺は全力でアキラを抱いてしまう」

 じっと夕焼け色に見つめられて目をそらした。

 反省するべき点は自分にある。その色々と話さないといけないことで一喜一憂し、不安を身体で誤魔化そうとした点だ。


 ――まだ、ダメだな。僕は。

 心の中の砂嵐が収まってくれない。話し合いで口にできるだろうか。

 今とても不安で仕方がない。どうして、と。女々しいなあと思いつつ、セキエイの恋人……恋人? あれ、好きだとは言ったけど、今の自分は、どのポジションなんだろう?


「あ、あれ」

 セキエイの胸の中で、基本的なことを思い出して、じっとセキエイを見た。

 やっとこちらを見たな、という顔のセキエイに、

「僕たち、なんだっけ?」

 好きと言い、キスをして、少しだけ甘い時間を共有し、

「なんだ?」

「えっと、駆け落ちして、好きだから駆け落ちしたんでしょ」

 ぐるぐると頭の中が回り始める。


「好きだから、僕、セキエイのなに?」

「……恋人だろう? 妻でもいいが」

 ぱんっと頭の中ではじけて、茹で蛸のように赤くなった。

「なにか不安だったか」

「こ、こい、つま!?」


 セキエイは何を言っているんだという顔をし、僕の中の砂嵐が薄れていく。

 情けない、情けない! 情けない!

 こんなに真っ直ぐ見てくれるのにナーバスになりすぎた。答えは目の前にあるし、セキエイは誤魔化す人間ではないと分かっていたじゃないか。


 だって、駆け落ちしようと実行するぐらいの心があるのに。

 なんでセキエイは、家の、王家の中で「情けない自分」と言っていたのだろう。

 こんなにも大切にしてくれるのに。


「あがるか」

「うん」

 立ち上がろうとして、身体が思うようにいかない。

「電話越し以上だな」

 くつくつと笑われ、収まっていた赤が身体中に広がる。

「こんなようでは、俺に抱かれた時、どうなってしまうのだろう。楽しみだ」

「うぅう」


 力を振り絞って風呂の端を掴まりながら立ち上がり、セキエイを睨む。

 そんなセキエイは、転ばないように身体を支えていてくれた。

 ぺたりと床を踏む。そしてシャワーで身体を清めるとセキエイは渡してくれて渡してくれて、見ればセキエイもバスローブを着ている。


 この世界の文明がよく分からず、そう、理解しようとするから落ち込んだのだ。

 情けないな。砂嵐のテレビに映る文字が「情けない」に変わり、小さくため息をついた。


「アキラ」

 浴室を出ようと扉を開いているセキエイの手の導きに従って、外に出ると、ぐいっと身体を引かれ、勢いのままにベッドにダイブする。

 それにセキエイが、ぎしりと腕の牢屋で押し倒した。


「しないんじゃなかったの!」

「しない。だが、アキラはしたくて仕方がないだろ?」

 二度、同じような言葉を言われて「うぅ」と仰向けになってセキエイに胸を叩く。

「本当に可愛いな」

 バスローブの紐を解かれて前が開く。本当にするのかと一瞬固まると、またセキエイはクツクツと笑い、己の紐も解いて肌と肌がぶつかる。

「しない。お前の不安が解消されるまでは」

 素肌が触れ合っているせいで気持ちが高ぶってしまう。


 セキエイは「恋人」のバスローブを脱がしてベッドに入れると、自分もバスローブを脱いで、裸と裸でくっつき、腕の中に「恋人」を抱き抱えながら、

「アキラ、不安にさせたてすまなかった。今からちゃんと話す。少し長くなるが聞いてくれるか」

 聞かない選択肢なんてないくせに。そう思いながら身を寄せた。

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