第16話 部室と先輩とぬいぐるみ
「へえ。じゃあ昨日の女の子とは仲直りできたんだね」
「はい、先輩のおかげでなんとか」
授業が終わり、文芸部の部室へとやってきた。
今日は先輩に部室で勉強しないかと誘われたのだ。
俺も桃瀬さんと仲直りできたことのお礼を言いたかったから、丁度よかった。
お礼を伝えたら、 霧坂先輩が悪戯っぽく口元を緩める。
「それで仲直りの記念にもしかして一緒にお出かけしたりするのかな?」
「え!? な、なんでそこまでわかるんですか!?」
「あてずっぽうだよ」
くすくす笑われる。いつも思うけど、先輩の洞察力はすごい。
いくら俺の顔がわかりやすいからと言って、それで当たるものなのか。
「あてずっぽうでなんで当たるんすか……」
「私もびっくりだよ。まさか本当にデートするなんて……ね?」
気のせいかもしれないけど、先輩はなんだか少し不満そうな顔をしている。
「私だって穂波くんと遊びたいけどな」
「え。ほんとですか。俺もぜひ行きたいですけど……ただ」
「ただ?」
「……先輩が遊んだりするのに、俺がいたら邪魔じゃないですか? 先輩は一人でもっとゆっくりしたいんじゃないかって」
「ふふ、邪魔なわけないよ。むしろぜひ行きたいくらい」
「え……そうなんですか」
意外だ。俺のイメージする先輩は優雅にクラシック音楽を聴きながら読書をたしなむような人である。あまり誰かと出かけるのを好むようなイメージは無かった。
「穂波くんはいつ暇なの?」
「……えーっと。まぁだいたい暇ですが……」
「じゃあ、その子とデートする翌週くらいはどうかな」
「……たぶん大丈夫なんですけど……」
「なにか懸念があるの?」
思ったよりすいすい予定が決まりそうでびっくりする。
先輩なんて一緒に出掛けたい人は山ほどいるはずなのに、俺でいいんだろうか。
ただ、先輩の言う通り懸念はあって。
「俺、幼馴染にご飯作ってて」
「……んん?」
「そこと被らないタイミングなら大丈夫です」
先輩が眉根を寄せていた。
「……ちょっと待って穂波くん」
「はい?」
「……幼馴染がいるの?」
「ええ、そうっすね」
普段ミオの名前は出さないけど、無理に隠してるわけではない。
先輩はちょっと呆れたような目で俺を見た。
「……どうせそれ、女の子だよね」
「な、なんでわかるんですか?」
「やっぱりだ」
目線を逸らして、溜息を吐いている。敵は一人じゃないのか……と呟いていた。敵とは。
「……まぁいいか。穂波くんがあまり学校外のことを話さないのは、彼女に関係しているのかな」
気づかれていたんだなと思う。
高校に入ってから、プライベートの話を誰かにしたことはあまりない。
「そうですね。……絶対隠したいわけじゃないんですけど」
「平気だよ。理由もあるんでしょ」
頷く。
俺はいつかミオと一緒に学校へ行きたいと思っている。
その時に俺がミオの話を学校で言いふらしていたら、変に印象が広まって偏見を与えてしまう可能性がある。現状のミオは家でネットに明け暮れ、たまに謎の物体を発明するだけの奴だ。あんまりいい方向に話が広がるわけではない気がする。
「意外と……じゃないのか。まぁたくさんいても納得だよね……もっと早く手を出しておくべきだったのか……じゃあ彼女はそれに気づいた可能性も……」
先輩がなんだか鋭い目で何事か呟いていたけど、内容はよく聞き取れなかった。
◇
先輩と話をした後は、静かな部屋でテスト勉強をしていた。
普段の勉強はだいたいミオとやってるけど、先輩だってかなり頭が良い。しかも先生の傾向まで理解して教えてくれるから、先輩に教わるとすごく対策がスムーズなのだ。
「そういえば穂波くん」
そうしてしばらくやって集中が途切れてきた頃、先輩がふと顔を上げた。
「はい?」
「今日はこの部室、二人きりだよね」
「そうですけど……」
桃瀬さんにも同じことを言われたな。
どうしてみんな二人きりの確認を俺にするんだろうか。
たしかに今日は秋元先輩がいない。俺と霧坂先輩だけではある。
首を捻っていたら先輩は「なるほど」と残念そうに呟く。
「……今日はないんだ」
「ない?」
「いや、ごめんね。ちょっと気になっただけだよ」
「それさっきの女子にも同じこと聞かれたんですけど……何か流行ってたりするんですか?」
「ん――同じことを?」
「はい」
保健室で桃瀬さんにも「二人きり……ですね?」と確認された。
それを聞くと、先輩は顎に手を当てて何か考え込むような姿勢になる。
「……もしかして、その子も? なるほど、だからバカだなんて……」
ぶつぶつと小声で呟いている。
やっぱり何か原因があるんだろうか。
「先輩?」
「ああ、ごめん。また考えごとをしてしまって」
先輩はペンを口先に当てて誤魔化すように笑っている。
「……あとそうだ。穂波くん。さっきからリュックからたまに変な音が聞こえるんだけど」
「え? 変な音ですか?」
言われてリュックを持ち上げて覗いてみる。とはいえ、何か異音を出しそうなものはない。しいて言えばスマホだろうか。あとは教科書とか問題集とかノートとか――ミオから貰ったぬいぐるみとか。
先輩がちょうどぬいぐるみに視線を向ける。
「穂波くん、そんなぬいぐるみ付けてたっけ」
「ああ。これミオ……幼馴染から今朝貰ったんです。リュックに付けてけって」
……そういえば桃瀬さんに見せるの忘れてたな。色々衝撃すぎて出せなかった。
「……ちょっと、貸してもらってもいいかな?」
「え、これですか? どうぞ」
リュックから紐を外して先輩に手渡す。プリクルのルクスは二等身のマスコットキャラっぽい見た目をしている。デザイン的に難しい恰好をしてるわけじゃないが、すぐにぬいぐるみを作れるのは流石ミオだ。
(ただ、いつもならもうちょっと凝ったことしてくる気はするんだよな……)
少しだけ思っていた違和感。
ミオがぬいぐるみを作るなら、もう少し機能が付いていてもおかしくない。例えばボイス入りにしてくるとか。あとは……通話機能とか?
ミオにしてはあっさりした出来かもしれない。
(まぁ、たまには普通のを作ったっていいけど)
と思っている内に先輩が検分を終えて返してくれる。
「ふむ。見せてくれてありがとう。よくできたぬいぐるみだね」
「ですよね。凄いんですよ。俺の幼馴染」
そこでふと思う。
ミオのこと、先輩には少し話してもいいんじゃないだろうか。
先輩、その幼馴染は今は学校に来てないんですけど、もし来たら少し面倒を見てあげてくれませんか――。
(……今じゃなくてもいいか)
先輩はぬいぐるみを返してくれてから、口に手を当ててまたじっと何かを考え込んでいる。思考モードに入った時の先輩はあまり邪魔したくない。ミオが快復するのも今すぐというわけじゃないだろう。
(今度出かけた時に相談してみよう)
そう思って、伸びをしてからまたテスト勉強に戻った。
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