27日目 魔法の秘薬『猫の玩具になってちょうだい』
ニアが目を覚ますと、ゼルが目の前に立っていた。
「お約束の魂を捕まえてきました。今日はこれで遊びますか?」
ゼルは身支度を済ませたニアの目の前に、小さくなった男の魂を放り出した。突然の出来事に男は訳も分からないという顔をしていた。
「魂の猶予はあなたの時間で1日。現実の時間では3分間。ところで、この男の魂はどうされますか?」
「どうするって?」
「貴女がよろしければ、このまま地獄へ連行しますよ。あの少年たちの魂も、ノクスから欠片を回収して修復すればいい感じに元通りになります。まさか、あの程度でおしまいにするつもりですか?」
ニアは小さくなった主人の魂を見つめた。この男が今までニアを虐げ、骨の髄まで存在をしゃぶりつくしてきたのだ。以前鏡で見た、地獄の業火に焼かれる魂をニアは思い出した。
「それじゃあ、遠慮なく地獄へ連れて行ってもらうわ。でも、そうしたら思う存分復讐ができないじゃない」
「ご心配なく。ここは貴女の夢の世界。そして貴女と契約した、私の世界」
ゼルは歌うように言うと、虚空から小瓶を取り出した。
「これは地獄特性の魂修復液。これをひとふりすれば、どんなに壊れた魂でも復活するでしょう」
「まあ、それは素敵ね」
ニアは今後のことを考えないようにして、主人に復讐をすることにした。ニアが主人の魂を持ち上げると、魂は叫んだ。
『お、おおお前! 俺に何かしたらただじゃおかないぞ!』
ニアの手のひらの中で、主人はジタバタと暴れた。しかし、ニアはもうちっとも怖くなかった。
「あら、一体何をしようっていうのかしらね。やれるもんならやってみなさい」
ニアは主人を床の上に置いて、その上から思い切り踏みつける。ぐえっと嫌な音がして、主人はカエルのようにぺちゃんこに潰れた。そこに魂修復液をかけると、主人の魂は見る間に元通りになった。主人の魂は恐怖に慄く顔でニアを見上げた。
「ふふ、面白いわねこれ」
今度は黒猫のノクスに魂を襲わせることにした。ノクスは逃げ惑う主人を追いかけ、鋭い爪で何度も主人の背中を抉った。逃げ疲れた主人が動きを止めた時、ノクスはにゃあんと飛び掛かった。ノクスが腹を食い破ると、内蔵が汚らしくまき散らされた。それからノクスは、たっぷり遊んでボロボロになった主人の魂の首根っこを捕まえてニアの元へ戻っていった。
「まあ、あなたはネズミを捕まえるのが上手なのね!」
ニアは魂修復液をボロボロの魂にかけた。瞬く間に元に戻った魂は、再びノクスに襲われた。ニアはノクスが主人を追い回すのを見て楽しんだ。ノクスが柔らかな腹に爪を立てるたびに主人の魂は叫び、懺悔の言葉を口にする。
『ああ、俺が悪かった、許してくれ』
しかしニアは、魂修復液を使うのを止めなかった。
「許すって何? 私はされたことをし返しているだけ。報いは皆受けるものよ」
それからその日、ニアはケラケラ笑いながら主人の魂をいたぶることに努めた。魂修復液の残りが少なくなったところで、ニアはゼルに小瓶と主人の魂を渡した。
「うんと地獄で罰を受けてもらってね」
「ええ、このような醜悪な魂は我々にとって大好物ですから」
ゼルの目がニアを捉えて離さない。ニアは既に悪魔に魅入られていた。
「知恵の実を食べた貴女ならご承知と思いますが、悪魔との契約の代償はご自身の魂。貴女が復讐を望めば望むほど、貴女の魂は汚れていきますがそのことについて何かお考えは?」
意地の悪いゼルの質問に、ニアはにっこり笑って答えた。
「あら、私の魂って汚れているのかしら。汚されたの間違いではなくて?」
主人に復讐をしながら、ニアは今後のことを考えていた。自分のことを考えるのは初めてであった。残りの日数で、自分はどう振る舞えばいいのか。その方法を知恵の実は教えていたが、その覚悟の仕方までは教えてくれていなかった。ニアはゼルの光る目に見守られながら、ベッドに入った。時計の音が大きく響いていた。何もかもが中途半端な日であった。
『27日目:終了』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます