10日目 ドラキュラ『怖い映画を観たの!』

 ニアが目を覚ますと、ゼルが傍らに座っていた。ニアが目を開けたことに気が付くと、彼は優しく微笑んだ。


「ねえ、どうして笑うの?」

「笑っているほうが、楽しいからですよ」


 ニアはゼルの言うことがよくわからなかった。昨日も「もっと望みを」と言っていたが、ニアの望みはそろそろなくなってきていた。


「今日は何をして遊びましょうか?」

「じゃあ、テレビが見てみたいわ」


 ニアは村の子供たちがテレビというものを見ているのを知っていた。子供たちは村に一台しかないテレビで映画をよく見ていた。カウボーイがインディアンをやっつける話が大人気だったらしい。ニアは漏れ聞こえる子供たちの話を聞きながら汚れた洗濯物を洗っていた。


「それではテレビを用意しましょうか……人間の作るものを用意するのは難しいですね」


 ゼルは虚空から何とかテレビを出すと、テレビ台の上に置いた。それから部屋にソファとローテーブルを置き、そこに大量の菓子を置いた。


「さて、何を見ましょうか?」

「私、テレビ見たことがないからわからない……」

「そうですね、私もこのようなものを真剣に見たことはないからわかりかねますが……」


 ニアとゼルがテレビを前に困っていると、黒猫のノクスがテレビの上にちょん、と乗った。それからにゃあん、と鳴いてみせた。


「ああ、ノクスが面白いものを見せてくれるそうです。彼はテレビが好きでしたね」


 それからひとりでにテレビの電源がついた。昔の映画が画面に流れている。


「ああ、この男は知っているぞ。地獄に来た時評判だったからな」


 ゼルが画面の男を指さした。吸血鬼の役の名高い役者が美女の血を吸おうとしていた。


「まあ、怖いわ」

「たかが映画だ、怯えることはない。それに……」

「それに?」

「いや、今は俳優の名演技に酔いしれようか」


 そう言うとゼルはローテーブルの上に置いてあったポップコーンのバケツを手にする。柔らかいソファに寝そべるようにして座りながら食べるポップコーンは格別だ、とニアは思った。


 それからニアはゼルと人形のフランと一緒に、ソファでテレビを見た。ノクスの見せる番組はどれも面白いものばかりだった。ニアは怖い映画ではゼルに抱き着き、おかしなコメディではフランと一緒に声をあげて笑った。様々な番組をニアに見せたことで、ノクスは得意そうな顔をしていた。テレビを見ていただけのはずなのに、友達のいろんな顔を見られたとニアは思った。とても有意義な日であった。


『10日目:終了』

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