9日目 クモとクモの巣『ステキなドレスを着るの!』

 ニアが目を覚ますと、ゼルは窓辺に人形のフランを置いて一緒に外を眺めていた。この部屋に朝日は射しこんでくるが、太陽が見えたことはなかった。


「今日は何をして遊びましょうか?」

「もっとオシャレをしてみたいわ。昨日みたいな服を着たいの!」


 ニアは村の子供たちや大人が様々な服を着ていたことを思い出した。ニアは村の子供が着古してシミや穴だらけの服しか与えられなかったが、他の子供たちはよく人形のように着飾られていた。ニアももっと様々な服を着てみたかった。


「それでは新しいドレスを作ってみましょうか。大人の女性が着るようなドレスがいいですね」

「素敵! それでダンスなんかできたら最高ね!」


 ニアは手を叩いて喜んだ。ゼルは虚空からたくさんの布を取り出した。シルクにサテン、革にデニム。様々な種類の布が部屋の中にあふれかえる。


「さて、どんなドレスがよろしいでしょうか?」

「うーんとね……いっぱいふりふりがあって、白と黒でね……」


 ゼルはニアの要望を聞き、そして魔女をイメージした黒のサテン地に白いレースを使ったドレスが作られることになった。


「それでは仕立て屋を呼びましょう。ノクス、ドレスを作ってくれ」


 ゼルが合図をすると、黒猫のノクスはにゃあと鳴いた後ニアの顔くらいの大きなクモに変身した。


「きゃあ!」

「怯えなくていい、中身はノクスのままだ。それに、クモは最高の仕立て屋だ。針と糸を使わずに上手に巣を編むのだから」


 クモのノクスはニアの身体へ這い上がると、あちこちを探って寸法を確かめた。ニアはノクスのチクチクする毛がくすぐったくて何度か声をあげてしまった。


「さあ、あとはノクスに任せよう」


 それからノクスはニアの選んだ黒のサテン地とレースで、あっという間に夜のクモの巣をモチーフにしたドレスを仕立て上げた。レースだけではなくノクスによってクモの巣の模様が丁寧に刺繍され、雨粒のようなきらきらとしたクリスタルビーズもあちこちにちりばめられた。


「今日は貴女が主役ですね、ニア」


 ゼルによって、ニアの髪の毛がセットアップされた。長い金髪をお団子に結わえ、とんがり帽子とゼルが用意した黒いとんがり靴が揃えばニアは立派な魔女に見えた。


「私、立派な魔女になれるかしら?」

「なれますとも。もっと欲望を吐き出してください。私は何でも叶えますよ」

「それで、修行になっているの?」

「一番大事なことは『何を望むか』ですからね」


 ゼルの言葉に、ニアは頷いた。もっと何を望むのかを考えなければならないようだ。


 それから黒いドレスを翻して、ニアはゼルと踊った。クモから黒猫に戻ったノクスや人形のフランとも楽しく遊んだ。ニアはとても満ち足りていた。それでもゼルは更に望みを叶えるという。ニアは明日は何をしようかと漠然と考え始めた。とても満ち足りた日であった。


『9日目:終了』

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