「……ひどい! いくら何でも聖水はひどすぎるじゃないか、シスター・マリエ~~~!!」


 獲物を狙う猛禽類のような鋭い眼差しが一転。


 例えるなら、そう。まさに飼い主に捨てられようとしている子犬のごときつぶらな瞳が、ウルウルと涙の膜を張って潤んでいる。おまけに、耳まで裂けそうなほど開いていたはずの口はすっかりへの字に折れ曲がっていて、その者がこの上なく拗ねている事を物語っていた。


 その者の全身からは、まだあちこちから先ほどの白煙が立ち上っている。それに気が付くと、彼は「あちち、あちゃあちゃっ!」と喚きつつ、両手をバタバタと動かして必死に払いのけようと必死だ。


 そんな彼に、シスター・マリエと呼ばれた彼女は大きな呆れと、ほんのちょっとの怒りを交えた大声で言い放った。


「何がひどいですか! 例え聖水を何百、何千リットルと浴びせたところで、どうせ大したダメージも受けないくせに! ちょっと熱いくらいで、我が神からの愛に文句を言うものではありません!」

「……いやいや、文句は言うよ⁉ 僕にとって神様は、とてつもなく面倒くさい敵なんだからさ!」

「そうおっしゃるのなら、その神へと仕えし立場にある私にもうちょっかいなどかけず、今すぐ闇の世界にお帰りなさい‼」


 そう言うと、シスター・マリエは胸元にあるペンダントのトップをぎゅっと握りしめる。月の光にかざされた銀色の十字架が、握りしめている彼女の手をも鈍く光らせていた。


 その者は十字架の光に「うっ……」と声を詰まらせるが、何かを振り払うかのように頭を二度三度激しく振ると、再びシスター・マリエを見据える。まるで神の慈悲を懇願するかのように。


「……嫌だ、二度と闇の世界には帰らない。その覚悟を持って、こうして君の所に通ってるんだから! えっと……、もう半年になるんだっけ?」

「今夜で、199日目です……」

「え、そうなの⁉ だったら、明日は僕達が出会ってちょうど200日目になるんだ!

ねえ、シスター・マリエ。その記念すべき日に僕とけっこ……うっぎゃあ~~~~~~!!」


 その者は最後まで言葉を紡ぐ事はできなかった。彼の額に、シスター・マリエがペンダントの十字架をこれでもかという強さで押し付けたのだから。

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