-第三夜- パンプキン

 昨今は既に作られたカボチャの提灯が売られているようですが、私は古い人間なので、手作りを好んでいます。

 納屋から引っ張り出したカボチャ用のナイフとスプーンを丁寧に磨いて、畑から獲ってきたいくつかのカボチャをテーブルに転がせば、友人はそのうちの小さな一つが大層魅力的に見えたようでした。

 オレンジ色のそれをちょいちょいと手でつつけば、今にも転がり落ちそうです。

「それはボールではありませんよ」

「分かってはいるのですが……」

 むずむずとした様子の友人を尻目に、私は一番大きなカボチャに向かい合います。

 蝋燭の灯りに照らされて凹凸のある輪郭を浮かび上がらせるそれに私はナイフで目と鼻と口の目星をつけました。

 ごつごつとした表面が手のひらに伝わり、手にしたナイフの刃をそこに当てれば、見た目とは裏腹にすっと沈み込みます。

 もう随分長いことやっているので、お手の物……といいたいところですが、実のところ、何年やっても上手くなった気にはなりません。本当に根気がいる作業なのです。

「ああ、今年は無辜のカボチャが無駄にならなければいいですね」

「友人よ、言い方が良くない。犠牲といいなさい」

 友人はお気に入りになった小さなそれを傍らに、テーブルの端でどてりと横になっています。猫の手を貸す気は無いようでした。

 オレンジ色のかんばせに満面の笑みが薄く浮かびあがれば、お次はその頭の中身をくりぬきます。ナイフで丸く切り込みを入れて、スプーンで掻き出してやるのです。

 これが一番難しく、私はよく力加減を間違えて、せっかくのカボチャを粉々にしてしまう事がありました。

 無事にへたを切り落として、沢山の種を掻き出して、黄色い実を削り取っていきます。素敵なジャック・オー・ランタンになるのですよと言い聞かせながら。

「そういえば、納屋から助け出した魔女の帽子はどうしたんですか?」

 黙々と作業をしている私を見守っていたものの、ちょっとばかり退屈になってしまったらしき友人がふと、訊いてきました。大きなカボチャの中身を半分ほど掻き出した私は、手を止めずに答えます。

「折角見つけてくれたので、丁寧に洗って、今干しているところですよ。昼間のうちに太陽の光をたっぷり吸って、乾くでしょうね」

「それはよかった。あれは随分と埃っぽいでしたから」

 会話はそれきりです。私の作業を友人は見守っていましたが、やがて彼は飽きがきてしまったようでした。

 艶やかで黒い身体を毛繕いしてみたり、お気に入りのカボチャを揺らしてみたり。ついにはううん、と伸びをしてから、そのカボチャを抱え込んでうたた寝を始めたのでした。

 大きなカボチャに満面の笑みが浮かびます。

 私は職人のように、一つ、また一つとカボチャたちに向かい合いました。こつ、こつ、と柱時計の振り子が揺れる音と、友人のぷうぷうという寝息を聞きながら。

 

 蝋燭が短くなり、テーブルにうずたかく黄色が積み上げられた頃には、ハロウィンを迎えるには十分な数のカボチャの提灯ジャック・オー・ランタン(と、あえなく犠牲になった、カボチャだったもの)が出来上がりました。

 それらがテーブルの上に並んでいるのは、なかなかに達成感を覚えます。友人が気に入った小さなそれは、そのままにしておくことにしました。

「ようやく終わりましたか」

 友人が大きな欠伸と共に目を覚まして、うん、と背中を伸ばしてから立ち上がります。私が作り上げた成果物の間をうろうろとうろついて、毎年のようにそれらを検分してくれるのでした。

「長いことやっていると、上手くなるものですね」

「そうでしょうか、自分ではそうは……」

「だって無駄になったカボチャは今年は二つで済みましたし、なによりほら、笑顔が素敵ですよ、旦那さま」

 尻尾の先っぽを揺らしながら褒めてくる友人に、私は気恥ずかしくなって、カボチャの提灯、その一つを撫でながら、そうでしょうか、ともう一度零したのでした。

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