3-2

「……怪談、蒐集家……?」

「ええ。素敵な怪談を探して、見つけたら巻物に集めるんです。好きな時にいつでも眺められますし、呼び出すことも可能ですよ。これがもう可愛くて可愛くて……」

「…………」


 古ぼけた巻物を懐から取り出して目尻を染める奇に、古和玖は黙って数歩、すっと後ろに退いた。

 変人だとは思ったがそれどころじゃない、変態だこいつは。

 これ以上一緒にいては危険だと判断し、すっと部屋の扉を指さす古和玖。


「手当は終わったので、早く帰ってください」

「おや、貴方の自己紹介がまだですが?」


 奇は面白そうにはらりと金髪を流して、巻物でトンと肩を叩く。


「初対面の相手に、名前なんて名乗るわけないでしょう」

「初対面の相手が今、貴方の自室にいますが」


 しれっと奇に言われ、古和玖は形のいい眉をひそめた。

「だってそりゃ、目の前で体痛めてる人間を放っておくのは後味悪いですし……」

「なるほど。貴方は相当お人よし――いえ、少し違いますね」


 奇は軽く首を傾けてじっと古和玖を眺めたが、しばらくして「まあ、俺には関係ないことです」と優雅な仕草で巻物を仕舞い直した。


「では少し、俺に関係のあることを推理してみましょう。察するに、貴方は妖言およずれごとの使い手では? 俺も実際に見たことはありませんけどね。貴方を見るまでは、もうすっかり廃れたものと思っていました」


 古和玖の瞳が、僅かに動いた。

 どくり、心臓が木霊する。


「貴方は、妖言で人を惑わせる――妖人およずれびと、ですか?」

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