3-1
「うーん。集め損ねましたか。残念残念、せっかく珍しく上質な怪談だったのに」
体力も精神も復活した男は、顎に指を添えて唸る。
妙に煌びやかな顔立ちと華々しい色彩、人目を引く着物姿と相まって、背景の殺風景な室内が和風庭園に見えてくるほど絵になる光景だ。
落ちた時に体を痛めたものの、「アルコールの匂いが注射を思い出させるので」という理由で露骨に顔をしかめて親の仇のごとく病院を嫌った彼は今、古和玖に家まで連行されていた。
「まあ、それを補って有り余る収穫はありました。今回は良しとしましょう」
「……僕ですか?」
やわらかく煌めく銀色の視線を流されて、古和玖は眉を顰めた。
「他にも色々と情報はありましたけどね。やはり、貴方とこうして繋がりができたのが今日一番の収穫です」
「――僕のことを、殺す気ですか」
「殺す?」
男は端正な瞳を見開いて、タンクトップ姿でケーキのデコレーションをする大怪獣を見たような顔をする。
「俺が?」
「怪談殺しって、呼ばれてましたよね」
「ああ」
男はポンと手を打った。
「真逆です、真逆。生きていくうえでは、このような些細なすれ違いなどよくあることじゃないですか」
艶やかに瞳を細めて、男は花のように笑顔を零す。古和玖は「真逆」と「些細」を同時に使う男の感性が理解できない。
「俺は怪談を殺したり封じたりしたことは一度もありません。むしろ、その美しさや可愛らしさに魅了されて今日まで生きてきた身です。――そういえばここまで手当てしていただいて、自己紹介もまだでしたね」
金髪を軽やかに翻して、男は優雅な仕草で立ち上がり、体ごと古和玖に向き直ってにっこりと微笑む。
「申し遅れました、俺は
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