●二千二十五年八月三十日:私の遺伝子を遺したくない
にしても。あの男は本当にバカだったな。
あの男の部屋には盗聴器が仕掛けられていた。私はすぐに気がついたけど、教えてあげなかった。教えてやる義理もないと思って。
ギルドマスターの女友達と通話した時、あの子はさらっとこう言った。
「気になっている男の部屋に盗聴器を仕掛けたんだ」
唖然。呆然。驚愕。吃驚。マジかよって思った。盗聴器を仕掛ける奴なんて本当にいるんだ。しかもそれを普通に言っちゃうんだ。
もちろん最初は信じてなかったけど、ギルドマスターが彼氏だったという事実が発覚した瞬間、私は全ての出来事に納得した。
あの男は、とにかく論理で人間関係をゴリ押ししようとする退屈な人間だ。いかなる時も論理的思考で歩んでいこうとする。
何故か? 答えは簡単。他人の気持ちを理解出来ない人だから。他人の感情を慮る気すら無いから。でもそれじゃ人間関係は上手くいかない。だから彼は論理をこねくり回し必死に正論を組み立てる事によって、常に正しくあり続け社会に適合しようとしているんだ。
でもそれはダメだ。違うよ。だって貴方が正しいという事は、貴方以外の人間全てが愚者になってしまうから。それじゃ貴方は誰の事も好きになれない。だから貴方はモテないの。お分かり?
そう、あの人はそういう人。だからこそ、あの子は彼の部屋に盗聴器を仕掛けた。論理的人間に感情をぶつけてもムダ。かと言って、常に彼が納得するような論理的行動を取るのは難しい。
じゃあどうすれば良い? どうすれば彼にとっての一番になり得るのか?
多分、彼女は最終的な結論に到達した。
データを収集し、駆使すること。
彼の部屋に盗聴器を仕掛け、私と彼の会話を盗み聞きし、彼の特徴や思考を捉え、どうすれば彼が満足する行動を取れるのか必死に研究した。
彼の論理という名の感情を理解するために、あの子はデータを集めた。そして集めたデータは機械的に正しい論理となり、常に彼を満足させる。
でもそれは欺瞞だね。ロボットのように論理を組み立てる彼と、データ通りに動く彼女が上手くいくとは思えない。
まぁ勝手にすれば良いよ。どうぞご自由に正論振りかざして悦に入ってくださいな。
私は生きている。数年前にセフレの子を孕んで中絶したり、故郷を捨てたり、こちらの世界に来てしまったり色々あったけど、強く生きている。
いや、強く生きなきゃいけない。
私のような人間は、長くは持たないから。
でも、ある程度は延命できる。
私はそこそこ強い。生きるための力がある。
コロポックル・コタンに所属していた男性のメンバー全員と、連絡先は交換してある。まだまだ、弾はある。
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