虎視眈々
デミトリアの展開したホームカード岩城立体迷宮路によりエルクリッド達のアセスはその中に閉じ込められ分断され、さらに高等術・
だが多人数相手故にデミトリアが狙い通りの戦術展開をするのは難しく、また彼のアセスも迷宮内に閉じ込められた形である事から発動するにしてもその頃合いは読みやすいと言えた。
しかし十二星召筆頭リスナーがそれらを考慮せず使ったわけではないのも間違いなく、油断できないのも間違いない。
(ホームブレイクを使ってもいいけど、デミトリアさんが見えない以上は迂闊に使うのは危ないかな……でも備えておいて損はない、はず)
手をかけたカード入れからカードを抜くのを止めながらエルクリッドは思案し、改めて状況を冷静に確認していく。
目の前に巨大な城塞の如き岩の迷宮が現れ、それにより双方のリスナーは相手を直接視認する事はできない。
また迷宮内にいるアセス達を通してその様子は各々のリスナーに伝わり、現状味方との合流もなかれば敵との遭遇をしていない状態である。
状況を動かすだけならばホームブレイクのカードにより岩城立体迷宮路を直接破壊してしまえばいいが、それに対して策を用意してる可能性は想定しなければならない。
一通り考え終えたところでエルクリッドはホームブレイクのカードをゆっくり引き抜き、シェダ達を呼んでカードを見せて用意がある事を伝えつつカードを入れ替え、迷宮を進み行くスパーダがランとタンザと合流を果たした事を伝えられる。
(エルク、こちらは合流を果たせましたが敵は確認できません。脱出を優先しますか?)
(デミトリアさんの出方がわからない以上は無理に脱出はしなくていいかも、待ち伏せもあり得るだろうしね)
迷宮には必ず出口がある、そしてホームカードのそれがかつて存在したものの再現となれば構造も同じであり、出口での待ち伏せ戦術はまず警戒するもの。
スパーダはエルクリッドの意見を受けてそれらをランとタンザとも共有しつつ、周囲への警戒を怠らずに中を進む。
一方でエルクリッド達の方はドラマ発動の為のカードを一向に使う様子のないデミトリアに警戒を強めた。
デミトリアがあえて使って囮としたという事も考えられ、どちらにせよ流れが悪いのは確かとエルクリッドの方を見るノヴァも感じ声をかける。
「エルクさん、このままだとらちがあきませんよ」
「わかってる、でもこういう時ほど焦らず冷静に作戦を考えて、相手の狙いを読まないとね」
時間をかければ召喚の維持だけで魔力は消耗していく、焦ればそれだけ付け入る隙を作り戦いの主導権を取られてしまう。
デミトリアが今狙っているのが自分達から動くこと、それに対する返しが最も可能性が高いと踏んでエルクリッドはノヴァにホームブレイクのカードをそっと渡し、チラリとシェダとリオに視線を送ってからタラゼドを呼び頷いた彼が素早く伏せて左手を地面につけた。
「スパーダさん達に衝撃に備えるよう伝えてください。崩壊へ導くは大地の鳴動、地から天へ昇る雷の如く立つものを穿く!」
岩城立体迷宮路に向かって四方から亀裂が向かっていき、それらが届くと同時に迷宮路が轟音と共に揺れて一気にヒビを走らせる。
タラゼドの攻撃魔法による一手はスパーダ達も巻き込むものだが事前に備えていた事で被害はなく、さらにそこから畳み掛けるようにエルクリッド達が動く。
「いくよ! スペル発動アセスチェンジ! 戻って、スパーダさん!」
「スペル発動スペルコピー、エルクリッドの発動したアセスチェンジの効果を使います」
アセスチェンジのカードでスパーダがカードとなり、亀裂が走った迷宮からエルクリッドの手元へ戻る。そしてその効果を複製させたリオもまたランをカードへ戻す。
一方でシェダはするすると隙間を抜けて来たタンザを直接カードに戻し、それぞれのアセスが退いたのを見計らってからホームブレイクをノヴァが発動しようと魔力を込めたが、瞬間、半壊する迷宮越しにデミトリアの強烈な重圧を感じ取りカードの使用を止めた。
(今使えば、確実にやられる……!)
ノヴァが感じたものはエルクリッド達も察し、やがてタラゼドの魔法が完全に成立し岩城立体迷宮路が崩壊すると土煙の中からミナヅキを担いでマダラが跳んで脱出し、威風堂々と佇むデミトリアの傍らに戻る。
「見え透いた餌には食いつかなかったようだなデミトリア?」
「ふっ、どう動こうと対処はできた。だが慎重な者共相手では、儂から動かす必要がありそうだな」
ミナヅキを下ろしながら話すマダラにデミトリアは堂々と答え、崩れ去った迷宮をカードへ戻し入れ替えた。
結果論であるがエルクリッド達がすぐに動かなかった事や、行動内容は痛手にならずに済んだ。同時にそれはデミトリアが受けて返す戦術から攻めへ転じるキッカケとなり、一歩踏み出しエルクリッド達を捉える彼の目がギラリと輝きを増し魔力が滾り風を呼ぶ。
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