天をも睥睨せし者ーTopー
金剛鉄壁
君臨する者はそれ以下を統べる。
だが真にその力を使いこなせる者はごく僅か、統率、崇拝、謀反、愛憎、革命、末端まで目を配り支配下とするのはそれ程に難しい。
故に栄華は途端に崩れ去る。それは不意に、徐々に、どんな形にせよ訪れる。
それを防ぐ為の策謀を張り巡らせ、その力を上手く扱い掌握し束ね、それでいて予想外の事態を切り抜ける技量と判断、そして幸運を持ち合わせねば長くは続かない。
彼はそれらを持っている側の支配者。帝王の名に相応しき、絶対なる存在。
ーー
不毛なる凍土で十二星召デミトリアとの戦い。彼の召喚した大蝦蟇マダラと
最初に切り込むのは
刹那にミナヅキが大きく柔軟な身体を振って粘液を周囲へ粘液を飛散させ、それに警戒したスパーダとランは急停止して跳び退き粘液が触れて煙を上げる地面から毒性を理解する。
(溶解毒……
堅牢な殻と柔軟な身体とを持つミナヅキが纏う粘液は猛毒、それが鎧のようになりさらに殻という防具もあるとなれば堅牢そのもので迂闊な攻撃はできなくなる。
またマダラも大蝦蟇故に巨体に見合わぬ跳躍力と機動力を持つ。以前エルクリッド達はその実力の片鱗を目の当たりにしているが、神獣相手に果敢に挑み拮抗するとなれば油断はならない。
そして何より、デミトリアもまた高等術ディバイダーによるアセスの反射と魔力の消耗を抑えている点は見逃せない点だ。真化したアセスにそれをするだけの魔力を蓄え、さらに温存してるとなれば長期戦はエルクリッド達にとっては不利である。
だからといって強行突破し勝てるような相手ではなく、またデミトリアもそうして乱れた隙を虎視眈々と狙っているのは肌で伝わるし、さらなる策が張り巡らされてる事も感じられた。
これまでにない強敵というのは僅かな攻防でスパーダとランは感じ取り戦慄が走るも、すぐに剣を構え直し足を前に踏み出す。
折れない闘志に眉を上げデミトリアがニヤリと笑みを浮かべ、刹那に発破をかけるかのようにエルクリッドがカードを切った。
「スペル発動フレアソーサリー!」
円を画きながらマダラとミナヅキを囲んで炎が燃え上がり、同時にスパーダが両手で剣を持ち前へと駆ける。
上級スペルのフレアソーサリーを相手にかけての拘束を狙うのに合わせての攻撃に対し、デミトリアは尾錠のカード入れに手をかけはするもその目はエルクリッドに応える形で動いたタラゼドを捉え、さらに連鎖するように動くシェダら全員を見て判断を切り替えた。
「ミナヅキは防御態勢、マダラは迎撃に備えよ」
「わかっとるわ!」
マダラが答えながらミナヅキの殻を軽く蹴り、それを受けミナヅキが身体を殻に引っ込めると同時に真白の煙を周囲に放って身を隠し、さらにそれがフレアソーサリーの炎に触れるとゆっくりと消していく。
消火と同時に拘束を脱し身を隠す、ここまではエルクリッドも読んでいた事でありタラゼドが追撃する。
「研ぎ澄まされた牙を剥くは悠久の時を積み重ねし大地!」
左手を前に突き出しながら開き詠唱するタラゼドが魔法を放ち、凍土に亀裂が走りマダラ跳んで空へと逃れるもミナヅキはそのまま割れ目へと挟まる形へ。
刹那に霧の中から姿を見せる形となったマダラ目掛けてスパーダが剣を振り抜いて金色の風を刃として放って狙い、だがそれを匕首でマダラは切り捨てながら自身を狙っているシェダやリオの視線を察し気を緩めずにいた。
「スペル発動ゴーストップチェック! リオさん、頼みます!」
「えぇ、ツール使用フレイムシールド! お願いしますラン!」
シェダがスペルを発動しとぐろを巻いてじっとしていた銀蛇タンザ目掛けてランが走り、直後にタンザとマダラの位置が入れ替わってランの手に炎を描く盾が握られる。
ゴーストップチェックによる位置変更は防御不能ないし攻撃の間合いへ相手を引き込むには最適な方法、だがマダラは既にランを捉えた迎撃態勢をとっており、ぐぐっと身体をのけぞらせながら頬を膨らませると炎を吐きつけた。
すぐにランはフレイムシールドを前にかざして防ぎながら前進を続けるものの、横から霧を突き抜けミナヅキがぬうっと姿を現し全身でのしかからんと迫る。
「スペル発動ソリッドガード!」
ここでカードを切ったのはノヴァだ。ミナヅキを結界で止めて守り同時にランを支援すべくスパーダがミナヅキを狙い走り大剣を振りかざす。
その刹那に、デミトリアが動いた。
「牢獄に、迷える者は、ただ歩く、生と死の中、歩み続けん……ホーム展開、岩城立体迷宮路!」
それが展開されると共にスパーダとミナヅキの間に石を重ねた壁が現れ、同じようにランとマダラとの間にも壁は現出しそれらが周囲を一変させる。
現れるは迷宮、外界から隔絶され見る事も出来ぬ建造物であり入口のようなものもなく、横にも縦にも広い。
それだけならただのホームカードと言いたいが、エルクリッド達はデミトリアがカードの展開前に口にした言葉から彼のそれは高等術が一つ
「タラゼドさん」
「デミトリア殿はルナールが抹消したホームカードの詳細を記した書物を読んでいた為に、一部ではありますが
エルクリッドにタラゼドが答えてる間に岩壁が連なり無骨で重厚な山城のような様相となり、その中にお互いのアセスが閉じ込められる形となる。
アセスの視界はリスナーにも共有される事から状況把握は問題ないものの、山城の出現により相手を視認できなくなった上にアセス達の第二の目となり死角を補う事もできない。
デミトリアもそれは同じであるが、高等術を使った事や彼の実力を考えればそれらは織り込み済みなのは間違いなかった。
(スパーダさん、大丈夫?)
(分断されましたが問題はありません。エルク、我々の支援よりもデミトリア殿の一挙手一投足を封じる事に専念してください)
(わかった、無理しないでね)
展開されたカードのドラマが何かはわからないものの、それらを封じるのは難しくはない。無論迷宮内のスパーダらの動向も意識せねばならないが、今は彼女らと、自分と共に戦う仲間を信じエルクリッドは金剛鉄壁のデミトリアへの闘志をより燃やす。
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