筆頭召喚札師
風の国の最北端は氷に包まれよりいっそう美しくも残酷なる景色が広がり、そこに生命はない。
辺り一面を氷原で覆うその場所に凍結しながらも在り続ける盆地がある。自然にできたにしては不自然で、かつて何かあったような残骸はあれどそれも形を成さず氷に包まれ静かに眠るかのよう。
極光が空を覆い夜空を彩る暁の中にデミトリアは腕を組み、凍てつく風の中であろうと威風堂々と佇み挑みに来る者達を待ち構え、やがて日が昇り始めると共にやってくるエルクリッドらの気配を察し目を開けまっすぐ捉えた。
「よく来たな。まずは儂に挑むその心意気を称賛しよう」
「ありがとう、ございます」
礼を述べはしたがエルクリッドは凍てつく風の寒さを上回る重圧に足が止まりかけた。元々背をピンと伸ばし雄々しい獅子の如く堂々たる振る舞いをするデミトリアが大きく見え、強大な相手だと再認識させられる。
だがすぐに深呼吸をして両頬をパンっと叩いて気を引き締め直して一歩前へと踏み出し重圧を跳ね除け、その様子にはフッとデミトリアも小さく笑みを見せつつエルクリッドと共に並び立つシェダ達と、そしてタラゼドの姿を見て腕を解く。
「タラゼド、貴公も手を貸すというのはあ奴らとの戦いを思い出させるな」
「むしろそれを望んだからこそ、ではないですか?」
そうだな、とタラゼドに答えながらデミトリアが周囲に目を配り、エルクリッドらも改めて今いる戦いの場を確認し直す。
街からも離れ生命の気配がない殺風景極まりない場所で、だが注意深く観察するとここが戦うのに最適だと気づく。
周囲に生命がない故に心置きなく力を出せる、街からも距離が十分にある為に被害や影響の心配もない。それこそ、神獣を召喚し激突させようとも。
(ここは、デミトリアさんが全力出せる場所なんだ。多分、師匠達もここで……)
タラゼドの口ぶりからエルクリッドは師クロスもかつてデミトリアと相対した時にここで戦ったこと、その時も今の自分達と同じように仲間と共に戦ったのを悟る。
かつて師が歩んだ道をなぞるように戦う、導かれたと思うと良くも悪くも思うものがあり、だがすぐに切り替え臨戦態勢となり魔力の風を呼ぶ。
「改めて……あたしの名前はエルクリッド・アリスターです! 十二星召筆頭デミトリア様、あなたに、勝ちます!」
明朗快活に、迷いのない言葉と瞳にデミトリアは軽く圧される感覚に包まれ、目の前のリスナーの強さを再認識する。
「来るがいい次の世代の担い手達よ、バエルに挑み制したという力と思いを、この十二星召筆頭デミトリアが試してやろうではないか!」
臨戦態勢と共にそれぞれがカードを引き抜きタラゼドも魔力を滾らせ身構え戦いは幕を上げた。
まず最初にアセスを呼び出すのはエルクリッドである。
「お願いします、スパーダさん!」
黄金の風を断ち切り重厚なる金色の鎧で身を包む
そのアセス達の身体を青の光が包み込んで魔法の鎧とするのはタラゼドの魔法によるもの、ノヴァだけはまだイリアを呼び出さずにカード入れに手をかけるに留め出方を窺う姿勢を取り、布陣としては悪くないと思いながら尾錠に備わるカード入れよりデミトリアは二枚のカードを抜く。
「デュオサモン、戦場に盃を掲げるは百戦錬磨の武士たる蝦蟇の長! いでよ
まず呼び出されるは匕首を携え羽織りを着た大蝦蟇マダラ。そしてデュオサモンの宣言をしてる事からデミトリアがさらなるアセスを呼ぶのを察し、エルクリッド達は警戒を強める。
「深淵に息を潜め狩場を張り巡らすは澱みを従えし強固なる者也! 参れ、夢幻泡影ミナヅキ!」
ずぶっと凍土に青緑色の液体が広がりながらその中から巨大な巻貝とそれを背負い触覚を伸ばす異形のドラゴンが姿を現し、身体から粘液を滴らせながら頭を上げた。
(タラゼドさんに聞いた話だと、デミトリアさんの戦術は守りを軸としたもの……バエルとは違うやり方をしてくるのと、そして噂に聞いてたあのアセスも……)
戦いの前に策を練り、その際にタラゼドからもデミトリアについてエルクリッド達は情報を得て臨んでいる。
守りを軸としたリスナー、それ故に攻めを主体とするバエルにとっては最も苦手とする相手であり、その相性の致命的な悪さ故に未だ勝てないというのも。
無論、バエルを退けるだけのアセスの地力とデミトリアの采配との併せ技というのも間違いはなく、守りを攻めに向けた時の力もまた大きいのも間違いはない。そして、デミトリアはさらなる切り札を備えている。
「これより星彩の儀による戦いを執り行う。十二星召筆頭デミトリアに挑みし者達よ、全ての力と技を我らにぶつけ勝利してみせよ!」
改めてデミトリアが声を高らかに宣言をし戦いの火蓋は切られた。偉大なるリスナーの重圧に負けじと踏ん張りながらエルクリッド達はカードを抜く。
NEXT……
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