鉄壁即ち無双
デミトリアの滾る魔力が風を呼び重圧を帯びてエルクリッド達へと襲いかかる。帝王が自ら動く、それが決して肩書だけではないのを嫌でも痛感させられながらも発動したアセスチェンジの処理の為にエルクリッドは次のアセスを呼ぶ。
「仄暗き深淵より頭を上げ、星に祈りを捧げよ! 行っておいで、ローレライ!」
白き煙を広げながらぬるりと数多のヒレを持つ半透明の身体を光らせながら魔獣ローレライが姿を見せ、初めて見る相手にデミトリアもほうと感心の声を漏らしながらも動じた様子はなかった。
次いでエルクリッドのアセスチェンジの効果を複製したリオもまた次なるアセスを引き抜き、同じくジェダも新たなアセスを召喚しに入る。
「氷解せし祈りよ、凛々しき刃にその思いを乗せ詠い奏でよ! 霊剣アビス、力を貸してください!」
「闇を断って悪しき光を祓ってこい、ヤサカ!」
目の前に現れる霊剣アビスをリオが取って素早く鞘から抜き、鬼の戦士ヤサカが静かに鎖で繋がる刃を手に相手を捉え臨戦態勢へ。
双方共に準備完了となるとまず動くのはローレライ。全身を震わせて吹き出す白煙を広げて移動範囲を確保するとすぐさま煙を泳ぎ、蛇行で翻弄しながらマダラとミナヅキへと向かう。
「噂に聞いていた新たな魔獣か、面白い。スペル発動エアープレッシャー」
デミトリアが迎え撃つ姿勢と共にカードを切り、吹き下ろす強い風がローレライの煙を吹き飛ばし行く手を阻む。先を失った事で止まったローレライに向かってすかさずマダラが低く跳んで距離を詰め、素早く匕首を振り抜く。
だがマダラの匕首はローレライの首を捉えはしたがぐぐっと包み込まれるように防がれ、その特異性にはデミトリアもほうと感心の声を漏らす。しかしすぐにマダラは匕首をより深く押し込んでローレライを弾き飛ばして対応し、横転するローレライもまた煙を浴びたマダラ目掛けて口を開き赤い光を向けるもすぐに避けられてしまった。
(ローレライの事をどれだけ知ってるかはわからないけど、流石に、手強いな……)
初見の相手に対してすぐに対応するのは百戦錬磨がなせる技とエルクリッドは感じカードを抜く。肌感覚で伝わるそれはバエルを上回るという実力を実感させ、それでいてまだまだ全力には程遠いのが伝わる。
瞬間、ローレライの煙に隠れ飛び出すヤサカがマダラに刃を振り下ろしにかかり、すぐに切り結んで火花を散らし再び相まみえ鍔迫り合いへ。
そこへさらにリオが前へと走って行くとすぐにデミトリアがミナヅキの名を呼び、殻を動かしながらぬるりと頭を上げるミナヅキがぷっと粘液をリオへと放つ。
(切れなくはない、ですが……!)
霊剣アビスの切れ味と自身の力量から粘液を切り裂くのは可能と判断しつつも、リオは受けずに避けて駆け抜けミナヅキへと向かう。そのまま真っ向から剣を突き刺しにかかるも素早くミナヅキは殻へ身体を引っ込め、さらに蓋を閉じ完全な防御態勢をとった。
攻撃を止めずにリオは剣を突き立てるも刺さる事はなく堅牢な殻は刃を弾き、刹那にデミトリアがカードを抜く姿が目に映る。
「ツール使用、スペルリフレクター!」
「スペルブレイク、グランドフレア……!」
碧銀の盾を手元に出したリオが霊剣と共に前に出して身構え、刹那にデミトリアが握り潰して発動するスペルがその力を解き放つ。
リオを囲うように円を画き一気に紅蓮の炎が炸裂し、吹き荒れる熱風が凍土を燃やす。その中でデミトリアは小さく舌打ちして炎の中から跳び退いて姿を見せるリオの健在を捉え、それがタラゼドの防御魔法による守りと見抜きながらもすぐに次のカードを切った。
「ツール使用、益荒男の太刀! マダラ!」
鍔迫り合うマダラがヤサカを押し返してからデミトリアに応える形で天より落ちてくる紫苑の鞘の太刀を取り、それを引き抜き波打つ刃紋持つ刃を光らせる。
刹那にマダラは目の前のヤサカを跳び越えてローレライに切りかかり、不意に繰り出されたそれにはエルクリッドも咄嗟にプロテクションのカードを切るものの、結界ごと押し退けられてしまう。
「ローレライ! 大丈夫!?」
駆け寄るエルクリッドに身を起こしながらローレライは体内の光を明滅させて応え、全身を震わせて白煙を広げ始める。だが単純に距離を作られた事もあり反撃に移るには時間がかかるのは明白であり、それが狙いと察したエルクリッドはすぐに前へと向き直って仲間の位置と状況を確認し、そちらへの意識を集中させた。
「シェダ、リオさんの立ち位置に気をつけて。タラゼドさんとノヴァは援護をお願い」
「わかりましたエルクさん! スペル発動フェイクミスト!」
エルクリッドに応じたノヴァがスペルを発動し、その場が濃い霧に包まれ視界が封じられる。本来ならお互いに位置が見えなくなるところであるが、タラゼドもすぐにエルクリッド達へ魔法をかけて霧の中でも視界が効くように施す。
フェイクミストの霧はローレライの白煙とほぼ同じ色というのもあり、デミトリアと二体のアセスは視界が奪われた形となり一見するとエルクリッド達に有利と言える。しかし、霧の中でリオはぬるぬると恐ろしく素早く動く
(視力に頼らない分、フェイクミストの中でも問題なく動けるということですね。ですがここでっ!)
攻撃の瞬間は即ち大いなる隙と繋がる。ミナヅキへ攻めても瞬時に守りに入られるが攻撃に合わせての反撃ならばとリオは考え、距離が近くなると同時に前へと出た。
刹那、真横から益荒男の太刀を振り下ろすマダラがリオに襲いかかりその刃にリオが映り込む。その瞬間にさらにリオの背後からヤサカが現れてマダラの太刀を受け止め、すぐに弾かれはするもリオが前へと進むには十分な時となる。
「
青く光る霊剣アビスが冷気と共に振り抜かれ、ミナヅキの身体を切り裂き一瞬にして氷で閉ざす。
と、リオはすぐに違和感を察して跳び退くが、氷を砕き脱したミナヅキの吐く粘液をスペルリフレクターで防ぐも煙を立てて溶け始めた事で放棄し、背後からマダラが振るう太刀筋を紙一重で避けつつヤサカと合流を果たした。
「命育み永久に座す大地よ、その堅牢にして大いなる力を剣と化し我が剣となれ……!」
「詠唱札解術!? スペルブレイク、スペルガード!」
地の底から響くような詠唱が霧の中に響き、すぐにエルクリッドがデミトリアの詠唱札解術と察してスペルガードでリオとヤサカの守りを固め、さらにシェダ、リオもプロテクションを発動した上でタラゼドが一点集中で結界を作り堅牢さを高める。
「スペルブレイク、アースバイティング!」
大地が揺れてヤサカとリオがいる場所が陥没し、刹那に竜の大顎を象る巨岩が現れると口を閉じ二人を噛み砕く。岩が砕け散り飛散する中で多重の守りで守られているのもあり二人は健在であったが、完全に抑えられなかった衝撃の強さのせいか片膝をついていた。
そこへ間髪を入れず現れたマダラが横一閃に霧を払いながら二人を切り飛ばす。が、間に入っていたローレライが身を呈して二人を守り、半透明の身体を両断されながらも煙を浴びていたマダラへ熱線を放ち半身を焼いて一矢報いながら沈黙する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます