烈風
穏やかさとはかけ離れるメビウスの魔力の滾りが巻き起こす烈風にリオとノヴァが押されたじろぐ中で、容赦はしないとばかりにメビウスはカードに魔力を込めアセスを呼ぶ。
「天を駆ける王者、大地を踏み砕き万象を支配せよ! さぁいくよ、天空王ハスラー!」
吹き抜ける風と共に掲げられるカードが閃光となって天へと登り、そして舞台へ落下すると共に勇ましき姿を現す。半鳥半馬の身体を持つ魔物ヒポグリフの天空王ハスラーは、ずんっと前足で舞台にヒビを入れて威圧感を放ちながら黄色い翼を羽ばたかせ静かに鳴いて威嚇する。
「さぁ、君達もアセスを呼びなさい。戦わずして諦めるならば、それでも構わない」
優しくもその口調は雄々しいもの。メビウスに促される形で重圧に負けまいとリオは気を引き締め直し、ノヴァもまた同じような状況でも退かなかったエルクリッド達の姿を思い出しながら前へと出た。
「いきますよノヴァ。デュオサモン、ラン、リンドウ」
「はいリオさん!」
冷静にリオはまずランとリンドウの二人の獣の精霊騎士を呼び出し、ノヴァもカード入れに手をかけつつもイリアを呼ばずに待機する。
相手は真化したアセスではあるが、いきなりそれを出す事の意味を理解してるとメビウスは察して小さく頷く。
(慌てないのは良いね。さて、どうしようかハスラー)
(いつものやり方で戦うのだろう? 蹴散らすだけならば容易いが、それでは求めるものには届かぬ)
(すまないね、頼んだよ)
心で対話を済ませメビウスは戦略構築を終え、かたやランとリンドウは剣を抜きつつも警戒してかすぐに動かずそれはリオとノヴァも同様だ。
慌てて攻めてこない、それは冷静さとも臆病とも取れるもの。だがメビウスとハスラーは冷静と捉えながらも堂々と構え、あえて動かない姿勢を示す。
対するリオはそれが挑発の意味があるものと認識しつつ、目線をノヴァへと送ってまずは様子見をする意を伝え刹那にリンドウが疾走る。
目にも止まらぬ速さで不規則に蛇行しながら駆けて錯乱するのにハスラーは動じる事はなく、ならばとリンドウが一気に懐へ潜り込んで細剣を刺しに行くと前足を上げ蹄で受け止め押し返されてしまう。
後ろへ押されつつも体勢を直すリンドウと入れ違う形でランが走って二の太刀とばかりに大剣で切りかかりに行き、横一閃のそれをハスラーは軽く跳んで避け巨体に見合わぬ身軽さを示してみせた。
(いい太刀筋の精霊剣士だ、油断するとやられるよハスラー)
(言われるまでもない)
心でメビウスと対話するハスラーの着地際を狙ってリンドウがランの肩を踏み台に高く跳んで剣を刺しにかかり、地上からはランが舞台を切りつけながら大剣を振り上げ挟み込む形で迫る。
それに合わせリオもカードを引き抜きつつメビウスの出方を伺う、が、メビウスは一切動かずハスラーは翼腕を羽撃かせて空中で静止しランの剣を空振らせ、上から迫るリンドウに対しては嘴で剣の切っ先を受け止めるとそのまま押し返す。さらにそこへ口から風の塊を吐きつけリンドウへ直撃させて大きく弾き飛ばし、鎧が砕ける程の衝撃がリンドウの全身を貫きリオにも襲いかかった。
「リオさん!」
「このくらいは問題ありません、スペル発動アクアウォール!」
冷静にノヴァに答えたリオがカードを切りハスラーの周囲を囲うように水が噴き出し壁を作る。
その間にランは下がりリンドウも着地しつつ立て直し、ハスラーもゆっくり着地し動かない。
最低限の動きと攻撃で相手を試すように立ち回る。実力を示すには十分な存在感を示すだけでなく、全力には程遠い手加減というのも伝えるものだ。
(ヒポグリフは半鳥半馬の空と陸とを制する魔物、ここで僕がカードを使うとしても何を使うべきか……)
下手なカードを切っても対応されるのは明白であり真化しているハスラー相手に有効なカードも限られ、その中で何を選ぶかをノヴァは思案しながらカード入れに静かに指をかけカードをなぞる。
それを横目で見たリオがとんっと右足のつま先を鳴らすとランとリンドウが同時に走り出し、リオもカードを二枚引き抜き攻勢へ。
「ツール使用フェザーブレイカー、そしてスペル発動アクアソーサリー!」
細剣を収めたリンドウの手に四葉を思わせる形の刃が握られ、刹那にハスラー目掛けて放たれ回転しながら空を裂く。高速で迫るそれを避ける為にハスラーが飛び立とうとする所へアクアソーサリーの水の膜が周囲を包み込んで動きを封じ、それを後ろ足の蹴りで破ってみせるも避ける機会を失う。
だがハスラーは冷静に軌道を見切り僅かな動きでフェザーブレイカーを避け、さらに迫るランに対しては両前足を上げて舞台を砕いて隆起させ壁を作り阻止して対応する。
しかしハスラーの後方へ飛んでいったフェザーブレイカーは弧を描いて軌道を変えて後ろから迫り、さすがにそれにはメビウスがカードを切った。
「スペル発動プロテクション」
展開された青の膜が突き刺さる形でフェザーブレイカーを防ぎ止め、しかしその間にリンドウが隆起した舞台を足場に飛びかかり剣を振り抜きハスラーへ一閃を放つ。
鋭く素早い一太刀は確実にハスラーを捉えた、かに見えたが僅かに身体をのけぞらせて避けられたのを手応えのなさからリンドウは悟った。
(このリンドウの最速の剣を避けただと!?)
目を見開き驚愕するリンドウへ力強い翼腕による殴打が放たれ、強烈な衝撃が穿く。舞台へ激突する前にランがリンドウを受け止めながらすぐに後退し、刹那、ここまで大きな動きを見せなかったハスラーが目つきを鋭くすると力強く足を踏み込み、その巨体を疾走らせ始めた。
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