風公明飛ーDukeー
天空の舞台
風は流れ多くを運ぶ。
時に旅人を、時に災いを、様々な表情をもって届けていく。
風を征する者は大空を支配する。
されど彼は支配をせずに穏やかに微笑み、多くを見守る。
そして必要な時にのみその猛威を奮い、己の地位に与えられた役目を果たす。
彼は風の公爵、世界の空を征する王者なり。
ーー
風の国ナームはエタリラの高地帯である。他国よりも空気の薄さもあるだけでなく、さらに高い山々もありそこで武者修行に励む者達は古来から存在し研鑽していく。
中央部のホークの街より東にあるファルコン山はエタリラ最高峰を記録する場所であり、飛行能力を持つドラゴンや怪鳥が多く住まう場所だ。
その中腹に人工的に作られた舞台は存在する。天空の舞台と呼ばれるそこは十二星召が古くから試練の場として利用し、その為に作られた場所である。
舞台へ至る道のりは道無き道を進む険しいもの。飛行能力を持つアセスに乗るなどして直接行こうにも野生の魔物達の縄張りを侵す為に戦いは避けられず、歩くにしても山登りの備えも必要で過酷さは変わらない。
最も高き場所にある舞台にて一人佇むのは十二星召にして風の公爵メビウスだ。静かに風が吹く中で雲一つない空を見上げ、やがて気配を察して前に目をやりニコリと微笑む。
「よく来たね。全員無事で何よりだよ」
過酷な道のりを越えて舞台に辿り着くのはエルクリッド一行である。さすがに山道を通ってきたのもあり息切れも疲労もあるが、すぐに切り替えて臨戦態勢となりやる気を示す。
「いよっし、まずはあたしから……」
掌に拳を打ち鳴らすエルクリッドが勇み前へと進もうとすると、すっと前へリオが出て手を横に伸ばし行く手を遮った。
「エルクリッド、今回は私に譲らせてください」
「それは、まぁ構わないけど……ノヴァはどうするの?」
一番手に挑むと意志を示したリオに同意しつつも、エルクリッドは彼女と共にノヴァの方へと振り返る。
今回のメビウスとの戦いは神獣イリアを獲得したノヴァの力試しも兼ね、補佐役としてつく形だ。
エルクリッドとしては模範を示すという依頼の事もありノヴァと共に戦いたいというのはあったが、何となくノヴァが今すぐ戦いに挑みたいという雰囲気を出しており、一歩前へ出てメビウスを捉えた。
「僕も、やります。エルクさんと一緒にやりたい気持ちはありますけど……いつまでも甘えてちゃいけないって、初めての頃からどれだけ成長したか見てもらいたいって思うから」
「ノヴァ……」
模範を示すという依頼を引き受けたエルクリッドからするとノヴァの意思は尊重に値するもの。まだカードも扱えなかった頃から成長したのを見せるならば共に戦うよりも、見てもらうのが良いのも確かである。
ノヴァが本音を押し留め前へと進もうとする意志を示した事でエルクリッドは笑みを浮かべ、わかったよと返してからすっと下がり見守る姿勢をとり、背中でそれを感じたノヴァは深呼吸をして両頬を叩き気を引き締める姿に微笑む。
(すっかり、成長してたんだね。すごいなぁ……)
最初は経験がほとんどなく守るべき者であり、知識はあっても力はない損剤だった。それが少しずつ鍛錬を重ね、多くを見て戦えるようになった事はエルクリッドにとって嬉しくもあり寂しさもある。
何より、今回は十二星召が相手というのは無理があるようにも思う事だ。一応メビウスはノヴァを狙わないとしてるものの、状況次第でそれは変わるとなれば共に戦うリオも攻めと守りの意識と判断の重要性を感じ、そしてノヴァもまたイリアの力を適切に判断し使えるかを思案しながら舞台に立つ。
(カードはちゃんとある、イリアも戦ってくれるけど今回は僕がリオさんを支えないといけない……力を、貸してくださいね、イリア)
カード入れに触れながら心でそう思うノヴァに、イリアが静かに翼を広げて応えた気がした。
リオはそれを確認してから前へと進み出てカードを抜き、メビウスもまた軽く咳払いをしてからカードを抜き相対する。
「さてまずはお互いに余計な力を抜く為に深呼吸をしようか。吸って、吐いて……もう一度して、と」
促される形でリオとノヴァも深呼吸を二回し、ニコリとメビウスの微笑むのと合わせて余計な力が肩から抜けた。
その刹那にメビウスの後ろから突風が吹いてリオ達を襲い、舞台の外で見守るエルクリッド達もその勢いに負けそうになる。
「これって、メビウスさんの魔力か……!?」
「えぇ、仮にもあの方は風の公爵と呼ばれる御方です。必要となれば普段の穏やかさを捨て猛禽類の如く鋭い爪を上げる……!」
シェダに答えながらタラゼドが見る先にてメビウスが目つきを鋭くし凛々しく佇む。普段の穏やかさはそこになく、十二星召としての勇ましい姿があった。
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