疾風怒濤
駆け出したハスラーは自らが隆起させた舞台を粉砕しながらランとリンドウへと迫り、完全に勢いがつく前にリオはカードを抜きながらノヴァを促す。
「ノヴァ、支援をお願いします。スペル発動アクアカース!」
「はいリオさん! スペル発動アースウォール!」
ハスラーの前に現れるは巨大なる土の壁、分厚く堅牢強固なそれに加えて湿気が全身に絡みついて動きを鈍らせ突進の勢いを抑え込む。
ほう、とメビウスは軽く手を叩いて感心する様子を見せるものの、それが彼の余裕とリオが悟った刹那にハスラーはギラリと正面を見据え、構わず駆けてアースウォールの土壁をただの突進で粉砕して見せる。
「そんな……アクアカースも効いて勢いを消したのに!? す、スペル発動ソリッドガード!」
動じながらもさらなるスペルをノヴァは発動し、緑の結界がランとリンドウを包み込む。物理攻撃を完全に防ぎ切るソリッドガードの発動にはリオや観戦するエルクリッド達も良い判断と思ったが、そんな束の間の喜びなど意に介さずにハスラーは結界に突進し凄まじい衝撃が大気を震わせた。
(防いでいるとは言え、この衝撃は……!)
ソリッドガードの効果を単純な力のみで破壊するのは不可能、しかしハスラーの突進はそれを可能と思わせる程の破壊力と衝撃とをもって戦慄させるには十分なもの。
守られているランとリンドウもそれは感じ取り、刹那、何かを察した二人の意思を感じてリオは手を前に出し二人をカードへと戻した。
「リオさん!?」
咄嗟のそれにはノヴァもリオの方へと振り向きながら驚くものの、どっと額に汗を流す彼女を見て危機的な何かを察したと感じ取る。
改めて前へとノヴァが向き直ると突進を止めてハスラーが少し下がっており、メビウスもカード入れに手をかけカードを抜きかけているのが見えた。
「見事な判断だ。あのまま守りに入っていればアセスは倒されていた……流石は水の国の騎士、というべきかな?」
「素直に受け取っておきます」
ニコニコと微笑みながら軽く拍手を贈るメビウスにリオはただただ冷や汗を流すのみ。穏やかさの裏に潜む獰猛さ、天空より睥睨する王者が獲物を見据えいつでも生殺与奪できると言わんばかりの圧力を感じ取り、だがすぐに深呼吸をしつつ戻したランとリンドウとをカード入れへと戻す。
(十二星召の中で最も穏やかな人物とされるメビウス殿の実力がこれ程とは……少しでも気を抜けば、やられる)
いきなり真化したアセスであるハスラーを出したのもこちらの戦意を削ぎ力の差を見せつける為のものとリオは感じつつ、深く息を吐き一歩前へと踏み出す。
ここで退けばメビウスに負けを認めるも同じこと、それはノヴァも理解し退かずに前に向き二人の姿を見てメビウスは頷く。
「いい顔をしている、若い頃のデミトリアや才覚ある者達も同じように勇気をもって困難に向かっていった。まずは高得点、かな」
そう言ってからメビウスがハスラーを呼び、振り向きながらハスラーが頷くとそのままカードへと戻す。
圧倒的な力を前に戦意を喪失しない事を確認するのが目的だった、となればここからは様子見がないとリオは読み取りカードを抜きながらノヴァへと静かに話しかける。
「ノヴァ、イリアの力をいつ使うかはあなたの判断にお任せしますが、見誤らぬようお願いします」
「わかっています、リオさん達を間近で見てきて学んだ事を、この戦いで示します!」
強い眼差しと答えにリオの心も定まりカードへと魔力を込め、ノヴァもまたカード入れに手を触れイリアと心を通わせ機会を待つ。それにメビウスも応えるように次のアセスを引き抜くと先じて呼び出す。
「大空を引き裂き大地を抉る爪と翼をもって蹂躙せよ! さぁ頼んだよ、ビデンス!」
吹き抜ける黄色の風が引き裂かれ、姿を現すはワシの頭と翼に獅子の身体を持つ魔物グリフォン。全身に古傷を持ち着地して早々に威嚇とばかりに甲高い声で大気を震わせ、荒ぶる闘争心にノヴァは気圧されかけた。
「グリフォン! 風の国を象徴する猛々しい魔物をこの目で見られるなんて」
「そう言ってもらえると嬉しいね、でもわたしのビデンスはご覧の通り荒っぽくてね……遠慮なく来なさい」
個体数を減らし稀少となりつつあるグリフォンに目を輝かせるノヴァにメビウスが穏やかに答えながら構え、リオも応えるようにカードを掲げ凛としアセスを召喚する。
「翼持つ守護者よ、誇り高き名を胸に剣を掲げ降臨せよ! ミリア=ローズ・ダエーワ!」
真白の翼が開き赤の戦乙女ローズが薄緑の刃持つ聖剣ヴェロニカを抜きながら静かに舞い降り、ゆっくりと立ち上がりながらメビウスを見つめ会釈し微笑み返された。
「このような形で君とまた会えるとはね、だが遠慮はするなとお父上から言われてる、というのはわざわざ言うまでもないかな?」
「構いません。人としての道は潰えてもアセスとしての役目、この身体となった事で進める道を征くと決めていますから」
再会も程々にローズが剣を構えてすぐに走り、相対するビデンスも強く舞台を蹴り真っ向から挑む。
飛びかかり爪で裂きに来るビデンスの攻撃を盾で防ぎ剣を突き出しローズは反撃、すぐにビデンスも翼を使って飛んで回避するとすぐに急降下し体重を乗せながら踏みつけにかかる。
紙一重でそれを避けつつ刃がを立て切りにかかるローズだったが、しなるビデンスの尾がバシッと強く手を叩き剣の向きを変えさせた事で切るのに失敗し、刹那に両者距離を置くと両リスナーがカードを抜いた。
「スペル発動ホーリーフォース、攻めますよローズ!」
「スペル発動エアーフォース、ビデンス、思い切りやりなさい」
互いにアセスの能力を高めるスペルを発動し、そこからは目にも止まらぬ攻防が始まる。
ローズが剣を振り抜き薄緑の光の刃を放ってビデンスに躱させると、すかさず飛んで距離を詰め一気に切りに行く。だがそれをビデンスも爪で受けて立ち鍔迫り合いとなり、単純な力で押し切るとぐるんと身体を回し後ろ足でローズを盾ごと蹴り飛ばす。
盾で防御こそ間に合ったローズだが大きく押され体勢が崩れ、そこへビデンスが上体を持ち上げながら翼を羽撃かせ黄金の竜巻をいくつも巻き起こしローズへと放つ。
「スペル発動スペルガード!」
咄嗟にノヴァがスペルガードを発動してその結界が竜巻を防ぎ、ローズも立て直す機会を得る。しかし竜巻の向こうにビデンスがいないのを察すると真上へと向き、上空から飛びかかるビデンス目掛けて剣を繰り出し両者交差し互いに腕を切り裂き合う。
疾風怒濤の如き攻防にリオの腕が裂け血が飛ぶものの動じる事はなく、冷静にカードを抜きさらに攻防は苛烈を極めていく。
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