第32話 【こぼれ話】 出雲大社 1
「では、次のテーマはここ、『出雲大社』です。」
「いやー、やっぱり10月は参拝客が多いっすね。みなさん神さまが集まるのに合わせてお参りに来るって感じっすかね。」
「多分そうでしょうね。でも実際に神さまが集まるのは、今の10月じゃなくて旧暦の10月なんですよ。」
「え?じゃあ今来ても神さまはいないんすか?」
「まさか。神さまは年中無休ですよ。24時間365日働いておられます。」
「いきなり身も蓋も無いこと言わないでくださいよ。おまけにブラック労働みたいに。」
「いや失礼しました。話を戻しますと、旧暦の10月になると、まず大社の西側にある稲佐の浜で、『神迎神事(かみむかえしんじ)』が行われます。」
「つまり『いらっしゃいませ』と。」
「はい。それから神職と地元の皆さんが、神さまを『十九社(じゅうくしゃ)』という社へご案内します。そこが神さま方の滞在先なんです。」
「ははあ。今でも地元の協力が生きてるんすね。」
「この時期になると、町の人たちは道路を掃き清め、幟を立て、家々では灯りをともして神さまをお迎えします。」
「風情ありますねえ。」
「ちなみに、令和二年(二〇二〇年)の感染症流行の時は、神職だけで神事を行い、地元の方々は参列を控えられたそうです。でも逆に観光バスが押しかけて、結局えらい騒ぎになったとか。」
「地元の大切な儀式が……。」
「観光も大事ですが、『俺らはお客様だぞ』という態度の人が増えたのは、ちょっと残念ですよね。」
「さて、こちらが出雲大社の正面入り口です。この鳥居が目印になりますね。」
「あれ?少し離れたところにも大きな鳥居がありますよ?」
「ああ、あちらは『宇迦橋の大鳥居』といって、大正時代の道路整備に合わせて建立されたものです。こちらは『勢溜(せいだまり)の大鳥居』ですね。」
「どっちも変わった名前っすね。」
「『宇迦橋』は大社の北側にある宇賀山から名前を取ったと言われます。『勢溜』は、人がごった返す場所という意味ですね。」
「へえ、昔から人で賑わってたんすか。」
「そうですね。この辺りには参拝客向けの見世物小屋もあったそうです。もちろん皆さん、見世物目当てだけじゃないですが。」
「縁日の屋台みたいな感じですね。」
「そんなところです。あと、昔はこの辺りが干潟で、潮が溜まる場所だったから『勢溜』と呼ばれたとも言われています。」
「へえ、ちなみにその昔ってどのくらい昔なんですか?」
「弥生時代ですかね。」
「……さすがにそれは俗説でしょう。」
「まあ弥生時代までさかのぼることは無いですが、かつての斐川平野は沼沢地でしたから。潮の干満で景色が変わる場所だったそうですよ。」
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