第33話 【こぼれ話】 出雲大社 2
「さて、改めまして『勢溜の大鳥居』を入ると参道となります。ご覧ののとおり、とっても見通しがいいですよね。」
「といいますか、なんで下り坂なんですか?神社って、たいてい見上げる位置にあるじゃないですか。」
「全く無いわけではないですが、全国的にも珍しい構造ですね。ただ、それは今の光景を見ているからなんです。」
「え、昔は違ったんですか?」
「はい。かつての出雲大社は、『天の八重雲を貫きて立つ御殿を造り奉る』と祝詞にも詠まれたほど、高層の社殿だったんですよ。」
「へえ、どれくらい高かったんです?」
「鎌倉時代の『造大社記』には『昔は十六丈の大殿あり、雲の中に御座します』とあります。」
「十六丈って……一丈が3メートルなら、四十八メートル?」
「そうです。東大寺の大仏殿より少し高いくらいですね。」
「んな無茶な。」
「まあ、ただの伝説だと流されていました。でも出雲の伝説って、そう簡単に片づけられないんですよ。」
「何か痕跡でも?」
「まず、出雲国造家に伝わる古い記録には、鎌倉期の改修前には巨大な高楼が建っていたと記され、その図面が残っています。そしてそこには、『三本の大木を束ねて柱とせし』と書かれていたんです。」
「へえ、完全に眉唾話だって訳じゃないと。」
「はい。ただその記録にある『三本の大木』が問題になりました。そのまま読み解けば、直径1メートル級の大木を大量に用意する必要があったんです。」
「そんな巨木、出雲にあったんですか?」
「まさにそれが問題でした。現在の出雲の森林から見ると、そんな大木存在しませんからね。長らく『盛りすぎの伝説』とされていました。」
「でしょうね。」
「ところが昭和の中ごろ、大田市にある三瓶山のふもとあたりで、地中から直径1メートルを超える巨大なスギが掘り出されたんですよ。」
「え、地中から木が!?」
「そうです。およそ4千年前の三瓶山の噴火で埋没したスギ林が、そのまま地下で腐らずに保存されていたんです。『かつて出雲の地には、こんな巨木があったのか!』と研究者は驚きました。そこから、『もしや出雲大社の柱材はこの巨木だったのでは?』という説が出始めたんですね。」
「へえ、伝説が少し現実味を帯びたんすね。」
「そうなんです。でも、それはあくまで可能性に過ぎませんでした。決定的な証拠が出たのは、さらに半世紀後の平成のことです。」
「平成?最近じゃないですか。」
「はい。平成十二年(二〇〇〇年)、出雲大社の境内発掘で、三本束ねの柱跡が見つかったんです。産地の特定までには至りませんでしたが、鎌倉時代の改修時に設置された可能性が高い、と判定されたんですよ。」
「うわ、マジっすか!伝説が一気に近付いたじゃないっすか!」
「そうなんです。鎌倉期の改修で大規模な柱を設置して高層建築を建て、当時の出雲国造家が『改修前はもっと巨大だった』と状況を書き残した、という流れが立証できたんです。千年以上『雲を突く御殿』と語り継がれてきた伝承が、現代の発掘で実証されたわけです。出雲の伝説って、本当にただの伝説だと片づけられないんですよ。」
「ロマンがあるっすねえ……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます